Re:Romance
五智川さんが、自身のスマホで私のQRを読み取ろうとした時だった。
「知らないんですか。その人、元モデルの叶恵リカですよ。」
セフレが、なんの予告もなく五智川さんを見ながら暴露した。ちょっと半笑いで。
「え? モデル?」
「昔、ギャル雑誌の読者モデルやってて、そこから専属になって。動画サイトなんかで常軌を逸した発言が話題になって、テレビに出始めて、」
実家の食堂どころか、私個人の歴史を語り始めた実来君。開いた口と開き切った毛穴が塞がらない。
「み、実来くんっ」
さすがの高市さんもオロオロして、思わず誰の得にもならない語りを止めようとする。
あのさあ、半笑いで暴露って。おいおい、そんなに私のことが嫌いか実来。
すると真ん中にいた木叉さんが、私の名前検索をしたらしくスマホを見ながら言った。
「あーっ、昔クズって言われてた俳優と浮気デートしたっていう! なんか映画降板になったって書いてあるけど。」
ふざけんなよ。
イラつきをそのままあらわにしてやろうかとも思ったけれど、木叉さんと五智川さん、それに来瞳さんにじっと驚いたように見つめられ、萎縮してしまった。
「ちょっと売れ出したモデルが女優気取りで共演者とデートとか。ほんと考えが浅はかですよね。仕事に対する熱がないっていうか。同じ会社にいるのが心外です。」
実来君がふっと笑いをこぼし、一気にコナビールを飲み干す。五智川さんが、木叉さんのスマホを覗き込み「“当て馬モデル”?」と、昔のスクープ記事らしい煽り文句を読み上げた。
もしかしなくとも、これも全部私への復讐なのだろうか。私には、他の男とつかもうとする幸せすら許されないとでもいうのだろうか。そんなに私が嫌いかよ。
なあんて、今さらどうでもいいわ!
実来君が私を嫌いなのは知ってるし、本名と芸名が一緒なんだから見バレ覚悟で生きてるっての!!28歳にもなって今さら私が落ち込むとでも思ってんの?!
伊達に悪役と都落ち経験してねんだよバーカバーカ!
私が一つ縛りにしていたベージュブラウンの髪をほどいて。毛先だけ丸を描いた長い髪をなびかせる。
分厚い眼鏡をとって、マスカラもビューラーもツケマも使っていない睫毛を見せつけるように、ゆっくり顔を上げた。
「そうだよね、朱朗君に相談に乗ってほしいって言われたからって、さすがにテーマパークでデートはなかったよね。私も反省はしてる。」
にっこり笑顔で、大人になった叶恵里夏を見せつけた。
実来君は目を細め私を怪訝そうに見ていて、木叉さんは頬を染め穴があいちゃうくらいに私を見つめている。
元ギャルのナチュラルメイクに惚れた?惚れたの木叉 ?なんなら中古車200台との等価交換で付き合って上げてもよろしくてよ?!
高市さんは面白くなさそうに、ノンアルブラッディオレンジをストローで吸っている。酒の飲めない高市さんは、リップを落としたくないからよくストローを頼むのだ。
周りの客も、指を差し私に見惚れているこの空気。気持ちよくて仕方がない。
今にも頭の中で高笑いが鳴り響く寸手のところだった。目の前の爽やかを気取る男が、吐息が漏れる声を武器につぶやいた。
「いい。」
実来君がそう言ってくれてたら私、今日赤飯炊こうと思ってたのにさ。
「いい。すごくいい。」