Re:Romance
「は、はい?」
五智川さんが、目を輝かせながら私を見ている。なぜ、なにその、汚れなき生まれたばかりのアザラシみたいなつぶらな瞳。
「叶恵……里夏ちゃん。」
「え。はい。」
「世界における万物が、今俺の中で磁力となり宙を舞う。」
「要約。」
「五智川《こちかわ》玲《れい》29歳、今、あなたに恋をしました。」
「ああー、はいはい恋ね。」
「俺と、付き合おっか。」
「ねえ五智川さん、右手のバッファローチキンが下に落ちた。」
うわあ合コンの席でいきなり告ってくるとか、慣れすぎじゃない? だって断られない自信があるからなんでしょ?
前髪を横に流した黒髪で、澄んだ瞳は誠実の仮面をフルフェイスでかぶっている。外身誠実爽やかなイケメンで、中身クズが私の一番キライなタイプだ。香椎みたいに見た目からチャラそうな方がずっといい。
今きたばかりのブルーハワイを手に、一息つこうとグラスに口をつける。すると隣の高市さんが「いい感じじゃないですか!」と小声で話しかけてきた。
はあ? どこをどう見たら今のがいい感じ?!
実来君を見れば、目の前の来瞳さんと楽しそうに喋っているから、嫉妬してくれてたらどうしよう〜という私の期待はチリナチョスと共に噛み砕いた。
「里夏ちゃん、スマホありがとう。QR瞬速で読み取ったから」
「ああそう。それより五智川さんにちょっと相談があって。」
「いいね、じゃあ二人で抜け出そっか。」
「一番奥の席だから抜け出せないけど」
「テーブルの下をくぐれば抜け出せる」
「そんな勇気があるアラサーはいないよ」
面倒くさいなこいつ。
「てか俺のこと玲《れい》さんって呼んでよ。」
「それくらいお安い御用なんで、私のために中古車200台用意してくれません?」
「玲さんって呼んで」
「玲さんハート。」
「いいよ、中古車200台ね。」
え?うそ、用意してくれるの!?名前呼んだだけで?まさかなあ〜。
「年式は?10年落ち未満?ムラノ限定だよね?」
五智川さん改め玲さんが、スマホで中古車の仕入れルートを探し始める。しかしそんなスマホツール一つなら、私でも3日で確保してるし。
「ムラノ限定で年式は7年未満、走行距離6万キロ未満、ワンオーナーのトラック不可200台。希望価格は生産価格の半額以下。」
「OK!」
いやいや、そんなスペックで生産価格の半額ってそもそもあり得ないから!
玲さんが、スマホでどこかに電話をかけ始める。ふと視線が合って、甘ったるい笑顔を私に見せた。
なんか、調子狂う。
「日比野ちゃん?うん、久しぶり。ちょっとムラノの中古車を確保したいんだけど、今からメッセで送るスペックで在庫みてくれる?うん、ああ美顔器と馬肉ステーキと時計ね、いいよ。」
明らかに通話相手は女の人だ。玲さんが、甘える声で彼女と等価交換を計る。
やっぱり五智川玲という人物は女の導線が根強いのだろう。
私が眉をひそめ玲さんを睨みつけると、はたまた眉を下げ目を輝かせてくる。
「も、もしかして、嫉妬?」
「いや、おかしくない?だって、私は“玲さん”て名前を呼ぶだけでいいのに。日比野さんには美顔器と馬肉ステーキと時計って、差がありすぎない?」
「やっぱり日比野さんに嫉妬?」
「まあ面倒だからなんでもいいわ。」
ちげーよ。それをいうなら私は来瞳さんに嫉妬してんだよ。
幹事同士の木叉さんと高市さんはムラノあるある話に花を咲かせている。
実来君はもう私のことなど視界には入らないらしい。来瞳さんとハワイアンカクテルを交換して、間接キスなどをしている。
他の男を早く探して付き合いたいなんて私の想いは、やっぱ本腰を入れているつもりでも身にならない。
きっと玲さんが私のタイプだったとしても、どうしたって実来心晴という昔の想い人には敵わないんだ。