Re:Romance
Daring




 ―――――私の過ちは、高校の文化祭だった。



 入学式では私を助けてくれたのに、式が始まる直前ですぐに席に戻ってしまった実来君。それからずっとお礼を言えずにいた。


 6月にあったスポーツ大会でも、バスケをする実来君にずっと見惚れるばかりで。背は低くても、ドリブルの神技で点を入れていく彼の姿は、私の胸をさらに高鳴らせた。


 さっさとお礼ついでに連絡先でも聞けばいいのに。私ってば好きな相手には以外と奥手なんだってことが分かった。


 夏は海外撮影で忙しくしてたから、あっという間に秋になっちゃって。


必ず文化祭で実来君に話しかけるんだって決めてたんだ。


 実来君のクラスは和カフェをやっていて、紺色にえんじの帯を締めた浴衣姿がめちゃくちゃ似合っていた。


友達誘って行こうかと思ってたんだけど。その頃イキっていたせいか、自分から男を好きになったことを伝えるのが恥ずかしくって。


目立つのに、一人でその和カフェに入ったのを覚えている。



『きゃー叶恵先輩ですよね?!』
『肌めっちゃキレい! めっちゃほそーい!』
    
『ありがとう。』

 
 店員の女子2人に言われて、私ももっと笑って喜べばいいのに。そういうのもなんか恥ずかしくって、淡々とクールにお礼を言うことしか出来なかった。


『あのさ、実来君って子、いるかな。』

『あ、いますよ!』


 知ってるんだよ。実来君が後ろの方で他の人の注文とってるの。


 女子が実来君を呼んでくれて、和服姿の実来君が私の席に来てくれた。

 
『いらっしゃいませ、叶恵先輩。』

『こんにちは。実来、君。』


 久々に間近で見る彼は、入学式よりも背が伸びたように思う。やっぱり綺麗一択で、白よりも半透明が似合う美少年だ。


『ええと、ご注文は。今、なにか頼みましたか?』

『うん。和紅茶と落雁《らくがん》を頼んでね。』

『ああ、素敵なセンスだと思います。』

『実来君の着物も。超いいよ。』
  
『ありがとうございます。』


 実来君の言葉一つ一つがつまみたくなるほど丁寧で、チャラい自分が恥ずかしくなった。


 私がなかなかお礼を言い出せずにいるってのに、実来君ははそれすらも感じ取ってくれてるかのようだった。


『あの。僕に、なにか用事ありました?』


 メイクなんてしていない、透き通る肌。彼の睫毛が艶めいてまたたく。


 お礼、言わなきゃ。たった一言でいいからさ。


 言えよ、マスカラとツケマを駆使した叶恵里夏。
 


『実来君。放課後、あたしと遊ばない?』


 お礼よりももっと凄いことを口走った。これ、どんなに曲がりくねった勇気だろう。


 実来君は一瞬驚いた顔をして。


それから、その唇を私の耳元に寄せた。


『いいですよ。』


 囁くような細い声で、くらくらする頭を必死にまばたきで誤魔化す。


 私は準備していた小さな走り書きのメモ用紙を渡して、クールな妖艶さを演出した。


『これ、私の連絡先。メッセちょうだい。』
  

 実来君が長い指で受け取って、指先が触れた感触を今でも覚えている。


 今思えば可愛いカードとか用意して、スキスキアピールをしなくて本当に良かったと思ってる。






< 23 / 89 >

この作品をシェア

pagetop