Re:Romance


『あんたが常連客のツケばっか貯めてくから赤字なんじゃない!!』

『お前がもっと光熱費を切り詰めないからだろ?!』

『元はといえば里夏を生んだのが間違いなんじゃないか!』
 
『姉さんとこに子供ができなかったんだからしょうがないだろっ!!』


 一階の店を閉めた後、小さな灯り一つしかついていない客席で言い争う父と母。


 二階の部屋で寝ていたのに、あんまりにもうるさいから一階に降りていったら、たまたまその易しくない真相を聞いてしまった。


 同じように眠れず、店のキッチンから客席を覗く10歳離れた兄が、今降りてきたばかりの私を見て言った。


『里夏、お前、本当は叔母さんとこに養子に出される予定だったんだよ。』

『え。』

『不妊で子供ができない叔母さんに、養子を生んでほしいって父さんが頼まれたらしくてさ。』


 養子という言葉の意味ははっきりと理解はできなかったけれど。まだ5歳だった私にも、兄の言っている意味は感覚的に理解できた。


『でもお前が生まれたらさ、叔母さん、男の子がほしいからって断ってきて。だから里夏を仕方なくうちで育てることにしたんだよ。』 


 ―――――仕方なく?


『俺と里夏が逆の性別ならよかったのにな。そしたらさ、お前は叔母さんとこに養子にいけたのに。』


 ―――――私が、生まれたのが間違いってこと?


 笑いもせず、ただ淡々と言葉を連ねる兄は、まるで私のせいで父と母の喧嘩が絶えないとでも言いたげだった。


 自分の居場所が分からなくなった、たった5歳の私。


 いつも二階から眺める女子高生たちは、派手な髪色にネイルをして、言葉遣いも気にせず馬鹿みたいに楽しそうに見えた。


 彼女たちみたいに派手に明るくなれば、こんな存在意義に悩むこともなくなるのだろうか。
  

 島咲さんのように独りでいても、誰にも真実を告げられることなく笑って過ごせるわけではないらしい。


 寂しさを埋めたい気持ちは、同じ。
 

『お願い、します。わたしから、実来君をとらないで下さいっ。』


 深く頭を下げる彼女は、泣きもせず、はっきりと私に懇願した。目に見える彼女の震える手と、耳から聞く震える声が、うかつにも私の同情心を買った。


『お願いしますっ!わたし、実来君のことが、大好きなんです!!』


 私が誘ったとか、ホテルに連れ込んだとか。普通ならまずそこを咎めるはずなのに。でも彼女は私を咎めたいわけじゃない。


ただ、実来君が自分から居なくなることが怖いのだろう。


『実来君がいなくなったら、わたし……もう……』

 
 私には、ずっと夢だったモデルという居場所がある。


 彼女から実来君をとったら、彼女にはなにが残るのだろう。


 ちっぽけな私の三半規管が、渦をあちこちに巻き散らす。何も巻き込めないほどのちっぽけな渦が廊下中に散乱して。


 私はそれらの渦と息を一緒に、すうすうと呑み込んだ。途切れ途切れの不器用な深呼吸が、なんとも自分らしかった。


 私の頭に渦巻くのは、彼女の大きすぎる孤独。



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