Re:Romance
「そうやって眼鏡で俺にフィルターかけて加工してくれるの?」
「玲さん加工しちゃったらバイナリーオプション並のハイリスクになりますよ。」
「リターン率も高いよ?」
「ただのキス魔防止対策眼鏡なんでリターンは求めてませーん。」
「あはは。」
なに笑ってんだこいつ。
下はスーツなのに、ほんのりカジュアルなミドルのスプリングコートが似合いすぎだ。
めちゃくちゃ爽やかな見た目で、お腹抱えて笑ってるし。目がしぱしぱするわ。
そう思いながらも釣られて笑いそうに自分がいるもんだから、五智川玲という人物は誘導が上手いのだろう。
私が誘導寸前の笑いをため息で誤魔化せば、玲さんが私の頭に手を置いて言った。
「合コンでの里夏ちゃん。なんか、カラ元気だったよね。」
「え?」
「いや、よかった。少しでも気が紛れたならさ。」
一つだけ年上の玲さんが、もっとずっと年上の人間にみえた。
私の頭を撫でて、それから少し歪んでいたらしい眼鏡の横をそっと持ち上げ直してくれた。
なんでか一気に顔が熱くなって、電車の明かりが行ってしまってよかったと思っている。図星は負の感情だけをもたらすわけではないらしい。
「あれ? あれは逆出向狙いの、なんとか君?」
「へ、」
後ろを振り返れば、そこにはヤツがいた。昔々の不毛な想い人が。
「里夏先輩、何してんです?さっさと帰りますよ?」
「はい?」
私と実りある結果を残せなかった実来君の声は、暗闇にぴったりの魔王軍幹部にいそうな低めの声だ。
玲さんが、笑いながら実来君に勇者さながらの爽やかさを振りまいた。
「来瞳ちゃんはどうしたの?彼女は君の保護下じゃなかった?」
「ああ、来瞳さんはちゃんと駅まで送り届けましたよ。」
「だとしたらどんなスピードでここまで来たの? 瞬間移動?」
「残念ながら空間移動です。」
「その空間異動でうちに逆出向できることを願ってるよ。」
もう一度私の頭を撫でる玲さんが、再び至近距離に迫って。ふわりと笑顔でささやいた。
「じゃあ、いつでも俺を呼んでね里夏ちゃん。瞬間移動で君の元まで行くよ。」
私の顔先から顔を離した玲さんが、実来君のいる方に軽く手を振る。そのまま振り返って、歩いて行った。
瞬間移動使えるなら瞬間移動で帰ればいいよ。
「あの上辺だけ繕った男に、中古車200台の貸しを作ったんですか。」
「作ってません。作りかけたけどやめました。」
「なぜ」
「それって、実来君に関係あります?」
来瞳さんを家まで送って行けよ。なにこんなとこまで忘れ物取りに来たみたいに来ちゃってんだよ。勘違いする女の身にもなってみなよ。
もう実来君のことを好きだったあの感覚は、いい具合に薄れてきてるんだよ。なに上辺だけ繕った男との仲を邪魔してくれちゃってんの。
私が悪役になった重鎮を、簡単に上辺だけ塗りつぶそうとすんな。