Re:Romance
「朋政がさ、親に逆らって生きてきた典型なんだよ。それなのに俺は、生まれてからここまでレッドカーペットの上を歩いてきてんの。」
「うん」
「反逆しない自分が、きもちわりーわ。」
その割に、自分が嫌いじゃない香椎が羨ましい。きっと家庭以外で、いい影響を与えられてきたんだろうね。
仕方ねえなー。と、私はあからさまなため息を吐いてみせた。
「香椎が反逆しないのはさ、優しすぎるからだよ。」
私の言葉に香椎が、「ふぇ。」とマヌケた声で反応する。
「自分がした一つの反逆が、いくつもの路線で不具合を起こしたりするじゃん。その尻拭いをするのは全部、お父さんやお母さんだから。きっと香椎はそれが分かってるから。反逆しないよう自分で制御してるんだよ。」
香椎に期待してる親なんだから、反逆の一つや二つや三つくらいして甘えてやればいいのにね。
香椎が私と実来君の距離感に気付いてしまったのは、いつだったか。
『距離感近いのに、なーんかギスギスしてるよね。なにがあったの?お兄さんに言ってみ?』
でも香椎は実来君を怒るわけでもなく、かと言ってヤリ逃げした私を咎めるわけでもない。笑って見過ごしている。
それは勝手に香椎が、私が実来君を好きだからと悟っているからで。
香椎のひけらかさない優しさは、確かに好きだった。でも私の心を分かろうと距離を詰める優しさが、時には辛すぎた。
惨めになるんだ。
「りか、」
急にささやくように言うもんだから、心臓がきゅっと小さく緊張した。
私は香椎から窓の外に顔を向けて。居づらくなって、そろそろ行こうかなと席を立った。
「お前って、実来のこと好きなんじゃないの?」
「はあ?」
「なんで高校ん時ヤリ逃げしたの?」
「さあ。あの時は、好きとかそういうわけじゃ。てか今だって好きじゃないよ。」
「こうやって、実来と里夏をくっつけようとしてる俺、どう思う?」
「え? どうって?」
「婚約者がいる自分のこと棚に上げて、部下と未練たらたらの元カノ無理やりくっつけようとしてる俺が、優しいとでも思ってんの。」
椅子を乱雑に引いて、元の位置に戻す。このワークスペースにこの空気を作ってしまったことを、後悔した。
未練たらたら? 今さら? 付き合っていたのはもう10年近く前になる。香椎なんていくらでもいるじゃん。
いくらでも、真っ当な人生歩いてきてる女がそこらじゅうにいるじゃん。
「俺が一番反逆したくなるやつ、なにか分かる?」
「な、なにが?」
テーブルの下に椅子を入れたまま、動けなくなる。椅子をつかむ自分の手が、鼓動から伝わり震えていた。
「結婚は、俺がしたいやつとしたい。って。反逆してみていい?」
香椎に後ろから抱きしめられて、そう耳元でささやかれた。
「し、しらない。」
「なあ、」
「な、なに」
「なんであん時、俺の連絡無視したの」
「っ、」
「けっこう……かなり、ダメージくらったんですけど。」
吐息交じりの声が、やたら鼓膜に響いて。
香椎の腕が、後ろからきつく私の身体を捕縛する。