Re:Romance
「ふれてないのに、濡れてる?」
「い、いわないで」
「リカ先輩、」
唇をぐわりと隙間なく塞がれて。実来君の舌が喉奥までを侵そうと必死に攻めてくる。
内壁を舌で何度も這わされながら、脚の付け根をつまむようにして刺激される。
なんでそんなに焦らすようにしか触れてこないの。
次第に頭がはっきりしてきて、10分という時間に違和感を感じた。
ストッキングのことを心配しておきながら、一向にその中を探られる気配はない。
もしかして実来君。これって、わざとなんじゃ――――
――――ピピピピピ
スマホのアラーム音が鳴って、実来君が私の唇から離れる。
スカートの中の手も、何の余韻も残すことなく引き抜かれた。
「はい。10分経ちましたね。僕の負けです、先輩。」
――――ああ、そういう魂胆ね。
美少年が前髪を手でさらりと整え、あっという間に運転席へと戻る。
姿勢を正してハンドルを握る実来君は、すでに会社の後輩に戻っていた。
「コンビニ、寄っていきます?」
「別に、ストッキング破れてないんで。いいです。」
「わかりました。」
この仕組まれた復讐ゲームは、私を勝たせて、私から実来君に抱いてほしいと懇願させるものなのだろう。
わざと焦らすように攻めて、弱々しい快楽しか与えず、「いかせてほしい」などと情けなく懇願する私を見て復讐心を晴らすつもりなのだろう。心晴だけに。
完全に遊ばれている。一時でも愛されていることを疑ってしまった馬鹿な私を、とことん陥れたいのか。
惨めになって、苦しくなって。ダッシュボードにある眼鏡とマスクをつけて今にも泣きそうな自分を抑えた。
車内は至って静かで、ラジオすらもつけていなかった。EV車特有の独特な走行音ばかりが耳に残る。さっきまでの官能空間が、嘘のようだ。
窓の外はすでに秋の夕焼け。妖しい色を携えた空の色は、なんともはっきりとは言い表せない色合いだ。
それを見つめて場の空気をやり過ごせば、たまに小さく咳払いをする実来君に脳の意識が持っていかれそうになる。
実来君の思惑通りに乗るが吉か。そう選択肢を与えている自分にも悔しくて、気を持ちなおそうと髪を結び直す。
しばらくして会社の近くまで来れば、ようやく実来君が沈黙を破った。
「先輩、僕への要求をお一つどうぞ。」
あまりにも淡々と、事務的に言葉に出されて、むしろ惨めさが馬鹿らしくなってしまった。
ここで「実来君!抱いて!」などと言えば、完全に彼の思うツボだし、ありきたりなギャグ漫画になりかねない。
だから私は余裕さを繕い、「んー。」と考えるふりをする。そしてあたかも、今思いついたように「ああ!」と言ってやる。
「たこ焼き食べたい。」
「はい?」
「たこ焼き。タコ居酒屋に行きたい。」
「………」
「おごって! 私を10分でいかせられなかったカッコ悪い実来君!」
言ってやった。馬鹿みたいに明るい声で言ってやった。
ふふん、と口で言ってやれば、実来君が平坦な声色で「いいですよー。」と言う。