Re:Romance


 モデル時代、どう考えたって女子からの指示の方が熱かった叶恵リカ。


 私が表紙を飾った衣装が次の日に完売したことや、私物のポーチとメイク用品を誌面で紹介してから3日以内には、ポーチもメイク用品も店頭から消えたことはあった。


 でも所詮は下町からの成り上がりモデルで、どう頑張ったって、育ちのいい品性が伴うわけじゃない。


 男からは推しよりも、一人の女としてみられることの方が多かった。なんていうの。会いに行けるアイドル?いや、ヤれそうな手頃なモデルだ。


 そう、つまり男には軽い女としてみられてきた。


 香椎だってそう。香椎みたいな育ちのいい将来性のある人間が、たまたまみちるの紹介で出会ったのが当時をときめくモデルだったというだけだ。


 もしモデルの私じゃなければ、香椎から「付き合っとく?付き合っとこっか。」という軽量ワードは出なかったはずだ。

  
「な、なにもしてない! うん、本当に。連絡先交換しただけ。」

「ふうん。」

「なにその白々しい目。私だよ? 誰かさんにもセフレ扱いされてるやっすい女じゃん! 香椎だって叶恵リカがお買い得品だから付き合ってただけじゃん!」
 
「まあいいや。」
   
        
 自分から話振っといて“まあいいや。”って。ナニソレこのパリピフリーダムエゴイスト!


 『玲さんの信仰心』に興味を失くした香椎が、右手だけで私に来い来いと呼びつける。   


 おそるおそる香椎に近付けば、香椎が真顔で両腕を広げてきた。今すぐ俺の胸に飛び込んでおいで、と言わんばかりに。


「よし。仲直りのハグっつーことで。」


 はい?


「香椎さんに溺れにおいで、リカちゃん。」


 どの部下にもそういうことしてセクハラしてるの?


「ちょっとさ、香椎。さすがにこの間から触れ合いが密すぎない?」 
    
「なんで? 放牧中のヒツジとの触れ合いは牧場主に課せられた義務じゃね?」 
  
「私はヒツジかい。」

「俺が牧場主で、俺以外全員ヒツジね。」

「ぶ、部下としてのハグ?」     

「ヒツジとしてのハグだって。」

 
 メエメエ鳴きながら、仕方なく香椎の腕の中にすっぽり収まりにいく。放牧中の感情はどこにも見当たらない。


 でも今だテーブルに座る香椎が、私を片膝に乗せるもんだから。制服のタイトスカートで跨ぐ形になった。足の爪先が刻むように震える。


 オフィスでこれはコンプラに反するけれど、新車部の嫌味な会議室を心理的に汚してやるチャンスだとも思う。


「叶恵里夏ちゃんって、なんでそんな自己否定感高めなの?」

「自己否定感低めに生きてる香椎には分かんないよ。」

「褒めてくれてありがとうね?」

「いいよ気にしないで?」


 背も高いしガタイもいいし。私も大概背が高いけど、それでも香椎の身体の中にはすっぽり包みこまれてしまう。




< 55 / 89 >

この作品をシェア

pagetop