Re:Romance


 昔からチャラくても、包容力があるといえばあるんだよな。

 
 私が離れようとすれば、香椎に力のみで戻されストライプのシャツに埋められる。お日様とムスクの香りがする身体に酔いそうなのを、チョウチンアンコウの顔を思い浮かべて抑止した。

 
「ちょ離して下さい香椎課長。取締役専務香椎忠彦の息子!」
 
「一見か弱くねえ女なのに。たまにか弱くみえる蜃気楼はなに?」

「……は。てかわたし、そんな弱々しいヒツジにみえる?」
 
「まあ。ラム肉に喰らいつきたくなるくらいには。」


 これ以上はマズイと、無理やり力任せに離れる。香椎の胸元から手を離す時。香椎が、ふと眉を下げ視線を落とした。


 なんだよ。その、淋しげな顔。


 私ってば、ダメだな。微々たるリカの母性で、うしろ髪ひかれ隊に入隊しそうになっちゃったじゃん。


 『疲れてる?大丈夫?』なんて優しい言葉をかけてはいけないと、さすがに自分でラインを引いた。


「失礼します。」


 頭を下げて、早々と会議室を後にする。  

  
 廊下を歩いている最中、自分のハートは速歩きする脚と足並みがそろっていることに気付いた。


 さーメエメエ泣きながら仕事仕事!


 それから約1ヶ月間、我が中古車部は地獄をみることとなった。


 地獄をみたのは、主に私。なぜ私か。


「申し訳ありません! 早急に送り直させていただきますので、え? あ、ああそちらの請求書は5年落ち製品のためお安くさせて頂いているわけでして、」


 日比野さんが間違えて顧客に、違う請求書を送ってしまったのだ。


 常連客のため、私が代わりに対応している最中。
  

 電話の受話器を両手で持ち、電話越しでも頭を下げる日本人のいい例だ。


 私が丁寧に電話相手に説明している間、日比野さんは作業デスクで書類を確認する仕事をしている。


 ちゃんと顧客ごとに書類がそろっているか、確認作業だけをお願いしたつもり。なんだけど。 
 

「先輩どーしよ! 日比野さんがお客さんから預かってる印鑑証明と車庫証明に穴開けパンチで穴開けちゃって!」


 高市さんが慌てた様子で私に言いにきた。


「す、すみませんッ! 前いた会社ではこうして保存していたので!」


 そして慌てて謝る日比野さん。


 いやまだ私電話越しに頭下げてる最中なんですけど。
 

 顧客から預かった証明書類は、一旦顧客情報管理を統括するセンターに送らなければならない。


 データ化して最終的に原本は破棄するのだと思うのだけれど、今の段階で穴開けパンチしちゃうのはどうなのだろうか?


< 56 / 89 >

この作品をシェア

pagetop