Re:Romance
 

「日比野さん、なんか邪魔しちゃってすみません。」


 今日のミスや説教のことに触れてはいけないと、日比野さんに手を合わせて笑顔を向けた。


 日比野さんは少し困ったような笑顔で、「いえ……」と言ってから。次第にうつむき加減になっていき。


 そして。なんと、その場で泣いてしまったのだ。


 マジっすか。


「は? え?! ええと、日比野さん、でしたよね? どうしたんです?」


 実来君がぎょっとして日比野さんに丸い目を向ける。


 私もぎょっとして、きっと今日のことを思い出してしまったのだろうと腹を括った。


「す、すみませ……。わたし、ぜんぜん仕事うまくできなくて……」

「いや、わ、私こそ。なんだかキツく怒っちゃって。」


 日比野さんと私のやり取りを、実来君はすぐに汲み取ったのだろう。


 ふっと笑いをこぼしてから、机に肘をつき、いやらしい目つきで言いよった。


「へえ〜。先輩、新人さんをいじめちゃったんだ。」

「うえっ、い、いじめたっていうか、その、ちょっとキツく言っちゃって……」

「僕にもたまには怒って下さいよ、里夏先輩。」

「いや、実来君がミスしてるのなんて知らないし。」

「心外だな。僕はミスなんてしませんよ。」


 実来君がちょっとぐいぐいキてるのは、気のせい?


 マジで、真田さんと日比野さんの前でやめなってば美少年。ほら、隣の方に目を向けてごらん? 真田さんの顔が全然笑ってないよ?


「あの、実はさっき日比野さんから色々聞いたんです。」

「え?」


 日比野さんの前に座る真田さんが、私に真顔で迫る。

 
「叶恵さん、日比野さんに対して、前の会社のやり方は通用しないって言ったんですよね?」
             
「あ、ああ。はい。言いましたね……。」

「なんかそれ、前の会社のことを悪く言っているように聞こえるっていうか。日比野さんからしたら従事した大事な会社なんです。その言い方はよくないんじゃないでしょうか?」


 そうなの?


 日比野さんは、真田さんのフォローという優しさに触れたのか、さらに涙を流している。
 

 特に考えてもなかったけど。でも真田さんに言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。なんとなくハラスメントの部類に入るのか? と、感覚的に感じる部分はある。


 どう反論していいか分からず。


 今は飲みの席だし。派遣会社に苦情を言われても困るし。


 仕方なく、きちんと日比野さんに謝ってしまった。


 別に意地になってるわけじゃないけど、腑に落ちない部分もあるのに。


そんな私をお見通しの実来君には、


「先輩。自分の気持ちに、正直に生きて下さい。」


と言われて。


なけなしの笑顔で「ありがとう。」とだけ伝えておいた。


 当然真田さんはいい顔をせず、日比野さんの気持ちに同意するようにハンカチを渡していた。


気まずい雰囲気の中のビールとたこ焼き。たこ焼きにはタコが入っていない気がした。





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