Re:Romance
Justification



 車のライトが数メートル先のアスファルトを白く照らしては通り過ぎていく。 


 日曜の夜でも大通りの車は忙しない。


 たこ焼きにタコは入っていたのか。アンティチョークが入っていたとしても、恐らくたこ焼きだと思って食べていたことだろう。


「あの、実来さんて、叶恵さんのこと、好きなんですか?」

「は?」

「あ、いえ。なんとなく、庇っている感じだったので。」  


 タコ居酒屋からの帰り道、同じ地下鉄の日比野さんと大通り沿いを歩いている時だった。


 今日は里夏先輩に説教をされたという日比野さんが、辿々しい言葉づかいで私情の密室に侵入してきた。


 なんとなく嫌な顔をしてみる。散々ミスをした人間が、自ら会社の先輩の私情に介入する余地はないだろう、という意味での嫌な顔。


 日比野さんは気まずそうにうつむいて、それからはさすがに無言になった。


 彼女の耳には、夜でもわかるほど輝くストーンが着けられている。小さなものではあるが、車のライトに負けず劣らずの主張を感じた。  
  

 僕が里夏先輩を好きだと自覚するには、あまりにも愚劣な感情だ。


 自分が気持ちの悪い人間だと自覚したのは、彼女《・・》が現れてからだった。


『実来君、好きです! 付き合ってください!』


 高校1年の6月、突如違うクラスの女子から告白された。


 まだ入学して2カ月も経っていない上に、1組の僕に対し彼女は6組とクラスも離れている。それでなぜこうも早く好きだといえるのか。


 人を好きになり告白をすれば、付き合う可能性があり親密な関係を持つこととなる。


 親密な関係になるという意味がこの人は、分かっているのだろうか。


 そんな疑問を持つ僕は、衝動的な感情に突き動かされない人間なのだ。だから、彼女の突飛な行動が理解できなかった。


『僕と君は、今初めて会話をしたと思うんだけど。なんで、いきなり告白なの?明白な理由がほしい。』


 今思い出しても、利己的な合理主義者だと思う。

 
 下校中、家の最寄りのバス停で降りた時。彼女は僕に告白をしてきた。うちの最寄りの駅って。まるで僕の家まで知っているかのように。


『明白な理由なら、100でも、1000でも言えるよ?』

『……』

『例えば、天から降りてきたような美しさを持っているところとか、神様のような優秀な頭脳を持っているとか。』


 島咲七花《しまさきなのか》。彼女の見開いた瞳で作る笑顔は、なんとも異様な様だった。


『それが言えたとしても、残念ながら僕は君を知らないし、好きにもならない。悪いけど、君とは付き合えないよ。』


 お友達からお願いします。という常套句も、あらかじめ拒否するために出た断りの返事。酷い言いようだと思う。


 期待させるだけ無駄というのが、合理的な僕の持論だ。





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