Re:Romance
Knave
出勤早々、またどうしようもない現場を目の当たりにする。
「ええ、ですから、それはそっちが最初にオプションのことを言わなかったからですよね?!始めから言われてたらこっちだってTVモニター付きで探してたし!」
日比野さんが、朝から電話で誰かと揉めているのだ。
「え?なんです?なんで日比野さんもう出勤して来てるんです?」
私の後ろから出勤してきた高市さんが、電話応対に励む日比野さんを見て目を丸くする。
「さあ。多分、はりきって掃除でもしてたんじゃないかなあ。」
日比野さんのデスクには机拭き用のぞうきんが無造作に置かれていて、窓ガラスには拭かれた後のように水滴が残っていた。
先週のミスの反省してる雰囲気を出すために? 率先して就業前から掃除を?
新たなミスが露呈しまくってますけど?
「じゃあなんで日比野さん、電話であんなにマウント取ってるんです?」
「うん。それは私も聞きたいよ。」
休み挟んでもリセットされない現実。あーやだやだ。
そもそも日比野さんの電話の相手は誰なのか。
「3年落ち以内の車検付きで頼んだのは岡野さんの方でしょ?!だからこっちはそれで見積出しただけじゃない!オプションが入ってないなんてキレられても困るのよ!」
岡野さん……? って、こないだ中古車見にきたお客様? 嫌な予感。。
ねえまさかと思うけど、顧客相手にその口調で話してる?!
「ちょっと貸して!」
私が日比野さんから電話の受話器を取り上げれば、日比野さんが「きゃっ」とふらついた。
「岡野様でしょうか? うちの日比野が大変申し訳ございません! 叶恵が承ります!」
岡野さんは、以前もうちで購入してくれているお客様。相手が言った言わないで揉めるのは身内だけにしといてよ日比野さんっ。
「ええ、ええ。TV付モニターと遮光窓……それでしたら車検付で2年落ちのコンパクトカーがございます。はい、色はパールブラックで――――」
岡野さんは年配の顧客だ。自営でスーパーを経営されてるご主人で、声が大きく一見怒っている口調に思われがち。
でも本人は怒っている自覚がない。ということがこの数年でつかみ取れた情報なのだ。せっかくの信頼関係を崩されては困る。