Re:Romance
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「それってお前、わざと負けてんじゃね?」
「わざとじゃない。」
「わかるよわかる。俺だって年下の女にゲーム持ちかけられたらソッコー負けて食われる道選ぶもん。」
いい年した男が上唇にビールの泡つけて「もん。」じゃねえわ。白雪姫に出てくる七人の小人並に可愛くない。
「てかよく考えてもみろよ。オークションなんて高値つけりゃいくらでも競り落とせるべ?」
「高値で仕入れて売れないと怖いじゃん。」
「ま、高値で仕入れても、100%の確率で売る実来には俺くらいしか勝てやしねえって。もし実来が女の娘なら絶対わざと負けるけどな。」
「話が堂々巡り。」
居酒屋 絆花《ほのか》。20席にも満たない小さな店内のカウンター席に並ぶこの男と私。で、わざと食われる話をしている。
「いいなー年下のセフレ〜」
カウンター向こうのキッチンで、皿を洗いながらそう羨望するのはギャル雑誌『RUNRU』時代のモデル仲間、穂咼《ほのか》みちる。彼女はこの居酒屋の店主の嫁。30歳にしてすでに子供が3人もいる。
しかしながら彼女の後ろではその旦那が明太筑前煮を煮ているのだから、今のセフレ羨望発言は大丈夫なのか。
「みちるー!聞こえてるぞー!」
「ごめんねダーリン。」
「ちくしょう!動揺して明太子多めにいれちゃったじゃねえか!」
「そんなヨッシーも好き。」
「ヨッシーも!」
ラブラブなご夫婦で羨ましい。
私が「らぶいのうざいな。」とご夫婦を見つめていれば、隣の席の男が私の腰に手を回し、妖艶さを演出しながらほざいた。
「俺らも最強にらぶすぎて周りからうざがられてたよなー?」
「今はお互いにうざいだけなのに。」
「俺がどれだけお前の噂、綺麗に整えてやってると思ってんの。」
「さあ。」
「元AV女優だのヤリマンだのを、“身持ち固い純情乙女”だっつってな?整えましたーつって。」
「はいはい整えてくれてアリガトウございましたー。」
香椎寿佐《かしいかずさ》33歳。
スーツのジャケットを脱ぎシャツを雑に折り曲げたコイツは何を隠そう私の元彼。ゆらつくグレーベージュのスパイラルパーマで毛先を遊ばせて。いかにも元遊び人、香椎寿佐にしっくりくる。
元彼といってももう大昔の話だ。私がまだ10代のモデル時代に1年ほど付き合ってただけの男だし。
みちると香椎は元々合コンで出会った友達で、モデル時代、みちるに紹介してもらったのがきっかけだった。
メディアの露出が増えたせいで忙しくなった私と、社会人の香椎との間にすれ違いが生じて自然消滅。
そんな香椎は驚くことにうちの新車部の課長、つまり実来心晴の直属の上司にあたる。
なぜ元彼とセフレのいる職場に私はのほほんと腰を据えているのか。こっちが聞きたい。