Re:Romance



「それにしてもさ、香椎は課長なのにその後輩君のゲームを黙って見過ごしてていいの?カンペキなハラスメントじゃん。」


 みちるが明太子多めの筑前煮をカウンターに置いてくれた。明太子と人参と絹さやの彩りが茶色い煮物を引き立てているのに、なんでか茶色い鶏肉が一番うまそうに見えて仕方がない。


「べっつに相互的満足感が得られてんならハラスメントじゃねーじゃん。」

「いや、満足感が得られてるわけじゃないけど。」

「それに実来君に抜けられると困るのよ。あれがうちの数字上げてるようなもんだし。」

      
 それは間違いなく否定できない。


彼は新車だけでなく、高値でも売れる中古車に目をつけ、新車購入希望者にも中古車を売っている。商売上がったり。支店としては県内でもトップに躍り出ている。


そのお陰で、課長である香椎の株も上がったりだ。


「ちょっと、勝手に私の甘酒焼酎飲まないでよ。」

「はあ?お前、誰のお陰で働けてると思ってんの?」

「なんだって私は後輩にセクハラされて上司にパワハラされてんだろ。」

「恨むなら自分の人生を恨めー。」


 モデル活動をしながら短大をぎりぎり卒業していた私。21歳で事務所を退所して、真っ当な仕事に就けず路頭に迷っていたところを助けてくれたのがみちるだった。


みちると香椎の友人関係は繋がっていたようで、香椎から中古車ディーラーの営業事務の離職が激しいから、誰か忍耐力のあるやつはいないかと相談されていたらしい。


みちるを介してMURANOに応募すれば、一般教養などすっ飛ばして2回の面接で内定を貰った。 


当時、香椎はメーカーであるムラノ自動車本社勤務だったのだが、なぜか同じ地方ディーラーに出向してきたのが1年前。


MURANOはムラノ自動車の連結子会社になるのだが、親会社のメーカーから子会社のディーラーに出向なんてのは珍しくない話だ。


ただ香椎のように年齢がいったメーカー本社勤務の社員を、今さらディーラーで個人相手の販売研修だなんてのは、かなり珍しいと思う。


「香椎もついに結婚かあ。」  

「大事な取引先の娘だからね。政略結婚ってやつだわ。」

「TLっぽいじゃん。そこに愛はあるのか? ってね。」

「相手清楚系の天使ちゃんだから愛しかないわ。」   
    
「チャラくても香椎って人情深いから意外と結婚には向いてそう。」

「ヤクザかよ。背中に入れ墨掘るならお前の変顔入れてやる。」

「はは。いい魔除けになりそう。」

  
 香椎は来年結婚することが決まっている。




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