Re:Romance


「だめ。ちゃんとメガネしときな。」

「え?」


 みちるがリンゴとキュウリの味噌ヨーグルト和えを私の前に置いて、カウンターから身を乗り出す。 
   
      
「いつだったか、私に“叶恵リカ”のことを聞きにきた男がいてさ。」

「は?」

「私は知らないって無視しといたんだけど。」

「みちるに? 聞いてきたの?」

「うん、突然このカウンター席に座ったと思ったら、『君、RUNRUの元モデルさんでしょ?』って言われてさ。『叶恵リカちゃんはよくこの店来るの?』って聞いてきたから、適当に知らないって返しといたんだけど、」


 『RUNRU』は今でも刊行されてるギャル雑誌だけど、みちるや私のことを知ってるって相当な古参だよなあ。


「そしたらさあ、うちのヨッシーがさあ、『たまに同じ会社のチャラそうな課長さんとそこで飲んでるよ』って、口すべらせちゃってね?」

「うぉおい!」


 言ったんかい!


「ごめんね、だからあんた、一応気をつけた方がいいよ? しばらくここにも来ない方がいいかも。」
 
「てか、私にそんな根深いファンなんていないよ?」        
 
「知ってる。でも今どきゲームのキャラと結婚式上げる時代だよ?ジャパニーズクレイジーだから、クレイジーな輩に注意しといて損はないって。」 


 みちるが本気で私を心配しているかどうかは怪しいけれど、もう私、28歳だよ? しかもモデル時代なんていつの話?


 みちるにその男の容姿を尋ねれば、帽子を被って眼鏡をしていたからよく分からなかったそう。


 誰かに頼っておいた方がいい? そうは言っても誰に? 大好きなセフレに迷惑はかけたくないし、元彼は海外の熟女バーだし。。


 不運はどん底のタイミングで幸運の右肩上がりになるんじゃないのか。



 次の日出勤すれば、それらは日に日に増していくのだから世の中の不条理よ破滅しろ。


 中古車部上階の小さな会議室にて。私は中古車部の濱部課長に呼ばれていた。 

 
「叶恵くん、日比野さんの派遣会社から苦情がきてるんだよ。君の言い方はパワハラまがいじゃないかって。」

「私の言い方? って、どの件ですかね?」


 言い方もクソも、日比野さんに対して言ったことは数知れず。


 どれのことだよ。こっちだって言いたいことはあまりにも多すぎる。弱気になってはいけないと、課長に威圧的な眼差しを向ける。


「どの件って、あまりにも多すぎてね。」


 そう言って濱部課長が私に渡してきた用紙には、びっしりと箇条書きで書かれている。


・「前の会社のやり方を出されても、ここは前とは違う会社だからそれが通用しないのは分かるか。」と言われた。

・「そもそも指示されていない仕事をやる必要はない。」と言われた。

・電話中に「ちょっと貸せ」と受話器を取り上げられる。


などなど。






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