Re:Romance
Love
「で? せっかく実来君の疑いが晴れるというのに、一体何の用事でここに来たのかね?」
橋田部長が、実来君の空気感に少しだけ身構えるのが分かった。
「まず最初に、叶恵さんが真田さんを階段から突き落とそうとした件ですが、物理的に不可能かと思われます。」
「その、根拠は?」
「真田さんやその場に居合わせた他の人の証言によると、叶恵さんは下の階から上がってきたんです。上から来た人間が、下から来た人間に肩をぶつけられて、前に倒れると思いますか?」
「まあ、下からぶつかったんなら、普通真田さんは後ろに倒れるかもしれないがね。そのタイミングで真田さんは足をすべらせたんじゃないのか?」
私の身の潔白を証明しようとしてくれていると知って、少しずつ緊張の糸がほどかれていく。
鼓動のスピードはまだ早い。でも冷静になって、隅にある少し元気のない観葉植物の存在が見て取れた。
「そもそも真田さんは、誰かに押されたと言っているのに、なぜ肩がぶつかったことになっているのか。本人と表現が食い違っていること自体おかしいとは思いませんか。」
「私はその件に関しては関与していないんだがね。じゃあなぜぶつかったことになっているんだね?」
「ええ、一人の女性が、咄嗟に“ぶつかった”という表現を用いたそうなんです。そうですよね?叶恵さん。」
実来君にぎゅっと強く手を握られて、私は息を呑んだ。
「はい……。そうです。自分は無意識だったのですが、日比野さんに“今、肩ぶつかりましたよね”って言われて、」
私がその名を口にした時だった。
前にいる役職者三人が、肩でため息をついたのだ。それは日比野さんのミスの多さを認知しているということなのか。
「それと今回の件ですが、防犯カメラの画像は工場の天井から撮られたもので距離が遠すぎます。不鮮明なままその人物を叶恵さんだと特定するにはあまりにも不十分かと。」
「いやしかしねえ。ちょうどその画像に映っている時間と、叶恵さんが工場に行った時間は一致するだろう。」
「その時間帯なら他にも工場内には人がいましたし、早い話、警察に持ち込めば画像解析で人物が断定できるのではないかと思いますが」
「そこまでのことではないと前にも言っただろう!わざわざ警察沙汰にしてまで犯人を突き止めるのは、」
「人様の車に傷をつけるというのは立派な犯罪でしょう。器物損壊罪になるのですから、身内だけで勝手に判断するのはいかがなものかと、と僕は散々伝えているつもりなのですが。」
もし警察沙汰なんてことになれば、その責任を問われるのは当然橋田部長になる。きっと降格と左遷は免れない。
すると腕組をしていた宍戸長が、少し姿勢を正して隣の橋田部長に言った。