Re:Romance
香椎の父親は、ムラノ自動車の常務取締役という役員の肩書を持つ。半導体メーカー『甚目《じもく》電子工業』との太いパイプを維持するため、その役員の娘と結婚することを強いられているのだ。
「ねえ、俺が結婚すると寂しい?」
「なんで?」
「こうして外で話す機会も減るじゃん。」
「え。それで私に何の損があるっていうの?」
「損しかないじゃん。寂しいとか寂しいとか。」
そう言って明太筑前煮の鶏肉だけを食べる香椎。むかついて、私が最後の鶏肉を奪い取る。
「香椎っていつの間にタバコやめたの?」
「営業はなあ、タバコ一つで成績に響くもんなんだよ。」
「へえ。」
「その鶏肉、里夏の指であはーんって食べさせてよ。」
「バーカ。」
今どき珍しく、反禁煙運動に加担するこの居酒屋は席でもタバコが吸える。のだが、香椎は意外にも禁煙者としての道を切り開いた。親の肩書に泥をぬれない香椎が真面目ぶっててうける。
そんな馬鹿みたいな営業迷惑行為をしている合間に、居酒屋内の空気が変わる。
おじさんたちのざわめきが消えて、何事かと振り返った。
「香椎!お久〜!」
「おう朋《とも》ー!オーストラリアから帰還?」
「一時帰国ね。また来週には行くし。」
なんだ……この、爆イケ……!
芸能人かってくらいのオーラで、庶民的すぎる居酒屋を制圧している。おじさんたちがその男に唖然と見惚れる。
スーツのシャツがまた紺色で、珍しい青シャツなのに何の違和感もなく似合っている。
うん、でもごめん。叶恵のイケメン階層では実来心晴のが上。
「ああ、コイツね、俺が大昔ヤンチャしてた時のダチ。」
「どうもぉスレンダーラインなお嬢さん!朋くんでーす。」
「朋政《ともまさ》ね、央海倉庫《おうみそうこ》のオーストラリア駐在員やってんだわ。」
「コアラは皆僕のファミリー!っと、僕にカルーア抹茶ブリュレミルク下さーい!」
「この店にそんなキワモノねーわアホ。生か水にしとけ。」
そう言って香椎の隣に座る朋くんというアッシュブロンドのイケメンは、どうやら頭の中身が残念系らしい。香椎といい勝負だ。