Re:Romance
芽衣は自分と同じように社会に揉まれ、自社に従事し知りつくしてきた社員なのかと思いきや、蓋を開けてみれば希少な箱入りだ。
女は家庭を守るという昭和の意識を重んじている家柄なのか、25歳にしてまともな就労経験がないらしい。
「どうやって叶恵の存在を知ったかは知らないけど、こっちは芽衣ちゃんのお遊戯に付き合ってる暇はないんだわ。」
「寿佐さん、“叶恵”だなんて煩わしい呼び方はおやめになったら?」
「そうねえ。じゃあ芽衣ちゃん世代に合わせてタイパ意識させてもらうわ。」
エスプレッソの熱いカップに口をつけ、苦味で冷静さを失わないよう脳に伝達させる。
カップが受け皿にガラスの相互作用の音を鳴らし、俺はソファに座る芽衣を見て言った。
「里夏に手え出すとはいい度胸じゃん。」
「手は出していません。」
「里夏に恨みがあるのか、そこまでして俺の気を引きたいのか、どっちよ?」
「どっちもです。寿佐さんは政略結婚の相手としか私を見ていないので、寿佐さんが一番気になっている女性が憎くてたまらなかっただけです。」
「どうして俺が一番気になっている女だって分かった?スマホのロック解除したの?大金はたいて探偵に頼んだの?」
「どっちも不正解です。あなたがムラノの販促企画部にいた時、率先して叶恵さんを広告塔やイメージモデルに起用したいと何度か企画書を提出していたという事実を知ってからは突き止めるのが早かったです。」
「親父さんとムラノの食事会で昔の販促企画部の人間に会って、俺の話でも聞いたの?」
「ええ正解です。タイムパフォーマンス意識して頂けて嬉しいです。」
まだ若かった俺が惚れた弱みで、少しでも里夏の力になりたいと必死こいて企画書を提出していた時代。一緒に働いていた人間からすれば、嫌でも俺が叶恵リカに入れ込んでいるのが分かるだろう。
それで今同じ店舗で働いているんだから、関係性を疑われても仕方がない。
「だからといってしていいことと悪いことがあるのは分かる?」
「お客さんの車のタイヤに釘を刺したことですか?」
「自分の罪を隠さないスタイル?」
「私がやったという証拠はどこにもありません。」
馬鹿みたいに髪を結んで? 眼鏡掛けて? どうみたって里夏のモノマネしてるとしか思えない防犯カメラの画像が証拠にならないって?
自分は里夏にはなれないとでもいいたいのか。完全に俺へのあてつけだわな。
何にせよ、自分の権力振りかざして深入りさせないつもりなのだろう。
「あの車は3台とも車検でタイヤ交換した後です。タイヤなんてすぐに替えがきくんですから、また替えればいいだけのことでしょう?」
「じゃあその新しいタイヤの費用はどこから算出されると思ってんの?」
「世界のムラノなんですから、それくらいのカバーは蚊に刺されたくらいのことじゃありません?」
「ははは馬鹿なの?会社舐めてる?そのカバーにはどれだけの文書と印鑑が必要になってくるか分かってる?」
会社の鬼上司だなんていうのは、よほど自力でのし上がってきたやつの肩書だ。その点、親の力でのし上がった俺には向かない。
でも大事な女傷つけられたら鬼にでも悪魔にでもなれる。
例えそれが半導体メーカーの政略結婚相手であっても、俺が容赦しないことをお忘れなく。