Re:Romance
「うちの里夏をよろしくね、玲さん。」
兄貴が 「ばいばい」の挨拶をして、そのまま店の中へと入っていった。
「とりあえずドライブでもしよっか?」
「玲さん、私今、こんなにも趣のない格好だよ。」
「かわいさと色気は健在だからオッケー。」
「慣れてるなあ、五智川玲の手腕。」
「そうみえる? こうみえて付き合うと長い方だよ?」
「ああ、そういえば香椎から聞いた。女に貢ぎ屋なんでしょ?」
「へえ、香椎さんに?」
「中古車200台確保もありがとうございました。でも私に貢いでも見返りがないからやめといた方がいいよ? むしろ叶恵里夏は下げマンだから。」
ははは、と軽く笑ってみれば、玲さんの爽やかな空気が、枝を踏み折る音で途絶える。
気づけば玲さんの骨張った片手が、私の両頬をぐっと挟んでいた。
「“香椎”って、なに?」
「へ?」
「上司と部下なのに呼び捨て? 二人の間には数ミリの隙間も見えないの?」
あ、しまった。
玲さんに気を許しすぎたのか、つい香椎課長を“香椎”と呼び捨てにしてしまった。
玲さんの黒く塗り潰された目は笑っていない。
一瞬身体がこわばって、喉がこくりと鳴る。急に寒気を感じ、カーディガンの上から自分の腕をさすった。
「寒いね。車の中いこっか。」
ふわりと爽やかな表情に戻った玲さん。私の頬から手を外す。車のドアを、ポケットに入っているであろうキーの遠隔操作で解錠した。
「待って、スマホと財布、取ってくるから。」
「いらないよ。すぐ、ほんの一時間程度のドライブだし。」
「……そうなの?」
「俺も明日仕事だから、そんなに長くはいられないんだ。」
気のせいだろうか。玲さんの雰囲気が一変したように感じたのは。玲さんにとっては先輩である香椎を、私が呼び捨てにしてしまったことに怒ったのだろうか。
香椎をそれだけ尊敬しているのか。前にメッセージでも香椎のことを心配していたしな。
一抹の不安を抱えたままだけど。店を手伝ってもらった恩もあり、私はそのまま玲さんの車に乗り込んだ。