Re:Romance
タイルでできた壁に、広いリビングのど真ん中にベッドがあって、天井には周りを囲むように電球ほど小さなライトが何個も等間隔に並んでいる。
「独身貴族謳歌しすぎか!」
どう見たって独身キザがデザイン性に富む生活を意識した部屋だ。
思わずツッコミを入れれば、玲さんがふふっと笑いながら私の後ろを指差した。
「見て。あの写真。あれこそ趣があると思わない?」
ミント色の掛け布団をどかし、身体を後ろに向ける。
タイルの壁には大きなファブリックパネルで飾られたモノトーン調の写真がある。
見た瞬間、冷めた笑顔で乾いた自分の笑いがこぼれた。
「はは……、なんで、わたしの表紙……」
『RUNRU』の何月号だったかは定かじゃない。
背中が空いた細身のドレスを纏い、後ろを振り返る私の姿。顔に自分の髪がかかり、ほぼすっぴんの叶恵リカが視線を落とし唇を自然と開けている。
この表情を出すのに苦労したのを覚えている。
幸運と不運を纏わせた雰囲気を作れとカメラマンに言われ、必死に両者の感情を交互に呼び起こしたのだ。
「里夏ちゃんがソロで表紙を飾ったのは計6回、その中でも俺はこれが一番気に入っているんだよ。」
「え。へ〜、ふ〜ん。そうですか。ではそろそろわたしはお暇させて頂きますね!」
おかしいでしょ。ないない。ないわ私の表紙画像わざわざ引き伸ばしてファブリックパネルにするとか。ネタでもやらないって。
でも玲さんは私の片腕を力任せに引き、ベッドに押し倒してきたのだ。その顔は希望に満ち満ちている。
「痛い。」
「知ってる。」
肩が外れたらどうしてくれんの。って私の想いとは裏腹に、冗談交じりに玲さんは笑うのだから。
「里夏ちゃん、仕事、辞職しなよ。」
「……は、」
「もう行ったってどうせ居づらいだけじゃん。辞めてさ、ここで俺に扶養されちゃいな?」
「扶養? どっから話とんだ?」
「日比野ちゃんの嫉妬買っちゃって、香椎さんの視界から消されそうなんでしょ?」
「はいっ?」
唐突になんの話!? 日比野ちゃん??
忘れかけてたおとぼけキャラが不意に浮かんで、そういえばあいつ、日曜休んだまま突然辞めたって聞いたよな。
「日比野芽衣は香椎さんの婚約者なんだよ。日比野ちゃんに目をつけられて災難だったね。」
「え?! 日比野ちゃんって。うそ。」
婚約者?! 香椎の? ってことは、甚目電子工業役員の娘?!
「嘘でしょ? まさか……じゃあ、婚約者が浮気調査してるって、」
「うん。日比野ちゃん、あまりにも里夏ちゃんへの嫉妬がしつこいからさあ。中古車200台と引き換えに、俺がナイスな提案してあげたんだよ。」
玲さんの手首を掴む力が強すぎて、腕の脈が赤紫色に変色している。
黒目に潜む闇に、ひやりとした氷点下を体内で感じ取った。
「に、200台? って……」
「俺が合コンで電話してた相手、覚えてる?」
「あっ! て、じゃあ、ナイスな提案って?!」
「いっそ日比野ちゃんがMURANOで働いて、里夏ちゃんを辞めさせるように仕向けたら?って。」
「はいぃ?!」
「潰すには内側からって言うじゃない?ムラノグループの派遣会社から入り込めば、甚目電子の肩書も振りかざせるしね?って言ったら本当に派遣で潜り込んじゃうからさあ。」
「い、いやいやいやいや」
ちょっと待ってよ。頭が追いつかない!
提案?! 提案ってよりも、それって唆してるだけじゃ……