絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話】: 菩薩の刺青(しせい)と淫らな供物 1

老人の言葉は、冷えた部屋の空気を震わせ、ひとみの鼓動を激しく打ち鳴らした。

耳の奥で、ドクドクと血流が逆流するような重低音が響き渡る。

老人の指先が、ひとみの頬に冷たく、粘りつくような感触を残して這った。

「産め……わしの、子を」

再度の宣告は、乾いた枯れ葉が擦れるような音で、ひとみの首筋を撫でる。

(えっ……嘘でしょ? いきなり何を……。このお爺さん、本気なの? こんな枯れ果てた体で、私を……孕ませるっていうの?)

言葉の意味を脳が拒絶しても、身体の芯は正直だった。

喉元を通り過ぎたばかりの老人の「熱」が、じっとりと下腹部に居座り、内側から自分を侵食していく。

ひとみは、その言葉を理解するよりも先に、身体の芯が震えるのを感じていた。

髪を梳く老人の節くれだった指先は、意外なほど優しく、それがかえって抗い難い威圧感となって彼女を縛り付ける。

老人がわずかに顎を引くと、控えていた裸身の秘書がしなやかな動きで歩み寄り、老人の背中に薄いガウンを羽織らせた。

老人はひとみの視線を真っ向から受け止めたまま、一度も瞬きをせずに告げた。

「お前は、わしに買われたのだ。焼こうが煮ようが、わしの勝手だ。……孕ませて、赤子を産ませようがな」

言い終えると、老人は半開きのひとみの唇に向けて、自らの口内に溜まった粘り気の強い唾液がダラリと、細い糸を引いてダラリと垂らす。

ひとみは迷わず、喉を鳴らしてその汚濁さえも至上の蜜であるかのように飲み干した。

(どうして……身体が勝手に……。汚いのに、熱い……甘い……。頭がおかしくなりそう……私、壊され始めてるの?)

「いい子だ」という無言の圧が、頭皮から伝わる。

眼を細め、老人の枯れ木のような指が、ひとみの乱れた髪を優しく、しかし逃さぬ執念を込めて、ゆっくりと手櫛ですくい上げる。
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