絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話】: 菩薩の刺青(しせい)と淫らな供物 2

それはまるで、愛しいペットに懸ける愛情、お気に入りの嗜好品を慈しむようでもあり、同時に獲物を品定めする剥き出しの欲望でもあった。

左右の壁越しに、女の絶叫が断続的に響く。

ピシンッ、ピシンッ……。

隣室では香港のIT企業会長に落札された雅代も、また、仕事上の知人であった男に無慈悲に責め立てられていた。

鞭が爆ぜる音と、男の嗜虐的な吐息が混ざり合う。

雅代の悲鳴が、元アイドルの鳴き叫ぶ声が、湿った空気の粒子を、ひとみの心を震わせた。

(……鞭で打たれてる。私も打たれるのかな……
調教の名目で、私も……)

断末魔の雅代の悲鳴が、肉の焼けるような熱を帯びて耳にこびりつき、ひとみの指先は、恐怖による微細な震えを止めることができなかった。

ひとみは起こされ、脚を揃えて座り老人の首筋に腕を廻し、頭を肩に凭れ掛かり、既に老人の「女」になっている。

老人が背後の秘書に囁くと、その枯れた吐息が冷気に溶け、秘書は天狗たちを引き連れて闇の奥へと消えていった。 

やがて革の猿轡に声を奪われた一人の女が、両腕を屈強な男たちに掴まれ、床を引きずる素足の摩擦音を立てて引き出される。

引きずり出されたのは、都内の「裏社会の妻」であったという、二十代後半の女だ。

口元は革の猿轡で塞がれ、言葉を奪われている。
老人がこのオークションで落札した、別の獲物だ。

女の背中には、極彩色の菩薩観音が一面に彫り込まれ、脂汗を帯びた皮膚の上で、鱗のように艶かしく光り輝いている。

「この女は既に、買い手がついてな。……借金の為、中東のある国へ今週中に向かう事になる」

ひとみは老人の眼を上目遣いに見る。

(……ああ、この人の眼。私は深い泥沼に、真っ逆さまに引き摺り込まれていく……)
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