絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話】: 菩薩の刺青(しせい)と淫らな供物 4

「恐怖と快楽は、皮一枚の裏返しだ。女という生き物はな、極限まで追い詰められれば、己の意思とは無関係に、ただ『受け入れる』ための肉塊へと成り下がる」

その時、ひとみの目蓋に涙が溢れ、視界を曇らせ、幻想的な光景が見えていた。

ぼんやりと、何かを見ている。

最後の一撃、力任せにに鞭を打つ。

「ぎゃあああ……」

ひとみの眼前で、極彩色の菩薩が悶絶の悲鳴を上げている

老人は指を上げ合図する。

秘書は頷く。

天狗に目配せをする。

「裏社会の妻」は、抵抗する気力さえ奪われたまま冷たい床へとうつ伏せに組み伏せられる。

屈強な天狗たちが、岩のような太い腕で彼女の両手両足を冷たい床に縫い付け、逃げ場を完全に奪い去った。

秘書が静かに動き出す。

その手には、不自然なほど太く、重厚な輝きを放つ蜜蝋の蝋燭が握られていた。

赤々と燃える蝋燭だった。

低温のSM用ではない、肌を焼く本物の熱。

秘書の手がわずかに傾き、溶け出した熱い液体が空を切る。

ジュッ……、ジュウゥッ……。

「あ、ぁ、ぐぅぅぅ……っ!!」

女の喉から言葉にならない絶叫が漏れ、背中の菩薩が苦悶にのたうち回る。

溶け落ちた白濁の雫が、女の豊かな臀部に、そして腿裏へと、容赦なく降り注ぐ。

ジュッ、という肉の焼けるような、あるいは悦びに震えるような音が、ひとみの鼓動とシンクロした。

(熱い……熱いはずなのに……。ビクン、ビクンって、快楽を覚えているみたいに跳ねてる……どうしてあの女(ひと)の背中は、あんなに艶かしく、喜びを湛えたみたいに波打つの? 蝋が白く固まるたびに、彼女の中の何かが壊れて……そして、女としての本能が暴き出されていく……)

項、首筋、そして極彩色の菩薩の慈悲深い顔の上に、無慈悲な熱塊が滴り落ちる。

(あっ……私、濡れてきた。やだ、興奮してきた)
< 104 / 136 >

この作品をシェア

pagetop