絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第六話】 : 苗床の帰還 ―その胎(なか)に老いた種を宿して―7

太ももの内側を、老人の種を孕んだ白濁した熱が、だらしなく伝い落ちていく感覚。

(……汚された。なのに、どうして……こんなに体が軽いんだろう……)

夫との、義務的で乾いた夜。あれは何だったのか。

ただ形だけの繋がりをなぞり、心を殺してやり過ごしてきた数年間。

それが、たった一度、名も知らぬ老人の、老練で残酷なまでに甘美な愛撫によって、木端微塵に砕け散った。

「あ……っ」

ひとみは思わず、自分の腹部に手を添えた。

この中に、あの老人の「生」が注ぎ込まれた。

嫌悪感はある。間違いなくあるはずなのに、それ以上に、一人の「女」として、徹底的に暴かれ、満たされた事実が、彼女の倫理観を内側から食い破っていた。

(理央……ごめんね。お母さん、もう戻れないかもしれない。……だって、こんなに……っ)

翌朝。

伊豆の潮風に、小鳥たちの鳴き声。

そんな中、ひとみは眼が覚めた。

「ひとみさん、お目覚めね」

秘書のまどかが入って来るなり、帰りの特急のチケットをひとみに渡した。

「今日の帰りのチケット。……昨日、手配して置きました。帰りは1人で、ゆっくり帰宅して」

ひとみは特急券と乗車券を渡され、眼を落とし、時刻等を確認した。

「また、近いうちに会いましょう。……気をつけて、帰ってね。私たちは、ひと足早く京都へ戻ります……じゃあ、ね」

まどかは、静かにドアを〆立ち去った。

その日の午後。

ひとみは東京駅へ降り立った。

手には、娘理央へのお土産を持ち、地下の総武快速線のホ一厶へ向かう。

「……ただいま。」

玄関のドアを開け、ひとみが発すると置くから、理央が出迎えに来た。

「……はい、お土産」

理央の顔が、どこか懐かしく思えるひとみ。

「わ……。ママ、ありがとう。……ママ、ご飯は食べたの?」

「もう遅いから、東京駅で軽く食べて来ました」

「お風呂直ぐ、入れるからね……」

理央はリビングへ行き、お土産を開ける。

ひとみは荷物を居間に置き、疲れた身体でお風呂に浸かって、そのまま寝室のべッドに転がり込んで、深い眠りについた。

平穏な家庭が、音も無く、けど静かに崩壊へと進むとは、まだ、ひとみ以外は誰も想像すら、してなかった。
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