絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第二話】:崩壊の足音と、京都からの誘い 6

「性行動という形を借りた、心の叫びや支配欲の暴走。それが依存症の正体ですよ」

事務長は、手元のコーヒーがすっかり冷めていることにも気づかず、ただ感心したように画面と医師の横顔を交互に見つめていた。

「……女性は怖いですな。そんなものが日常の裏側に潜んでいるとは」

事務長が身震いしたその時、ホールの隅にある長椅子に座っていた一人の女性が、音もなく立ち上がる。

(もしかして……彼女もかな?)

ひとみは、今しがた立ち上がり、廊下を歩いて行く、女性を視線で追ってしまった。

仕事帰り、近所のスーパーに夕食の買い物に立ち寄る。

野菜をカゴに入れながら、頭の中は京都旅行のことで一杯だった。

誠司にどう切り出すか、思案する。

理央を連れて行く後ろめたさ。

そして、あの老人に再び抱かれる自分の姿を想像しては、脳裏の濃霧が消えなかった。

(……約束だもん、行かなくては。せめて……私だけでも)

そんなおり。

前方から一人の女性が歩いてくる。

見覚えがあった。

理央のクラスメイトの母親だ。

名前は確か、佐藤さん。

いつもは控えめで、地味な色の服を着て、存在感を消しているような主婦だったはずだ。

しかし、今日の彼女は異様だった。

遠目からでもわかるほど、ファンデーションが厚く塗り重ねられ、口紅は不自然なほど赤い。

主婦というよりは、どこか場末の夜の女を思わせるような、退廃的な艶かしさが全身から溢れ出している。

「あら……ひとみさん。今お帰り?」

近寄ってきた彼女から、噎せ返るような香水の匂いの隙間に、別の匂いが混じっているのをひとみは見逃さなかった。

「あ、はい……お疲れ様です。今日はお出かけでしたか?」
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