絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話】: 二面の顔と、女の性 2

外で、いったい何をやってんだ?……おまけに、怪しげな痣までつけて、……俺をバカにしてんのか!」

ひとみは心の中で自嘲した。

上野の店に出入りする日は、帰宅は終電近くで、アルコールの匂いを漂わせている。

身体には、店内で遊んだ『証拠』の痣を、消し切れずに帰宅する事もあった。

(……確かに、最近の私はどこか変よね。)

「慰謝料はきっちり絞り取らせてもらうし、理央の親権も渡さない。だらしない母親に、育てる資格なんてないだろ」

(……勝手なことばかり。私をここまで追い込んだのは、あなたなのに)

誠司の声は、湿った汚泥のようにひとみの耳にまとわりつき、生理的な嫌悪を煽る。

けれど、誠司は気づいていなかった。

ひとみの心は、もうこの家にも、彼との空虚な生活にも一ミリの未練も残していないことを。

そもそもこの結婚自体、ひとみにとっては不本意な妥協の産物だった。

遊びのつもりが理央を授かり、命を捨てる勇気がなかったから形を整えたに過ぎない。

ひとみにとっての「幸せ」は、道徳の檻の外側にしかなかった。

しかし、金銭的な心配はひとみには無かった。

数日前、京都のまどかからLINEが有り、離婚に際して、金銭的トラブルになるようなら、老人が全面的に支援するとの、連絡を貰っていた。
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