絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話】: 二面の顔と、女の性 6

(……いよいよね。もう、後戻りは出来ない……もう、出来ない)

そして脇道に入ると、大きな門構えを潜り、老人宅の玄関口に辿り着く。

「ひとみさん、こんな遠くまで……良く来て下さいました」

老人は玄関前で待っていた。

脇道に入ると、まどかが携帯で二人の到着を知らせていた。

「ご無沙汰しております」

ひとみが深々とお辞儀をする。

「おぉ、おぉ。……理央(あなた)が娘さんだね。幾つになるの?」

眼を細め、実際の我が孫のように、慈しむように老人は理央に聞く。

「……十一歳になります。5年生です」

理央は初対面の老人に対して、恥ずかしさと、緊張感でいっぱいだったが、きちんとした口調で答えた。

「さあ、寒かったろう。理央ちゃんも、遠いところをよく頑張ったね」

老人の手は温かく、理央の頭を撫でる仕草には一切の淀みもなかった。

ひとみは、誠司という男の刺すような冷気の中に長くいたせいで、この「普通の優しさ」に、かえって涙がこぼれそうになるのを感じていた。

屋敷の中は、古い木造建築特有の落ち着いた匂いが漂っている。

まどかが用意したという夕食は、豪華な会席料理ではなく、子供の口にも合うようにと配慮された、滋味深い京のおばんざいだった。
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