絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話】: 二面の顔と、女の性 7

「理央ちゃん、これは京野菜と言ってね。この土地の土と水が育てた、特別な宝物なんだよ。食べてごらん」

老人は理央の皿に優しく料理を添え、学校の話や好きな遊びについて、熱心に耳を傾けていた。

その姿はどこからどう見ても、孫の成長を喜ぶ善良な祖父そのものだった。

ひとみは、誠司がかつて食事中に理央を「うるさい」と一喝し、食卓を凍りつかせた光景を思い出す。

今のこの穏やかな時間が信じられないほど尊いものに思えていた。

老人は、茶碗を運ぶひとみの細い指先を、慈しむように見つめる。

二人の間には、既に伊豆での「約束」がある。

連休が明け、幕張に戻って離婚の手続きを終えた後、ひとみは京都へ移住する。

金銭的な問題は全て老人が引き受けるという、破格の条件。

老人(かれ)はただ、ひとみが自分の用意した空間に馴染み、安堵の息を漏らすのを、計算ずくの忍耐で待っていた。
< 151 / 160 >

この作品をシェア

pagetop