絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第六話】:背徳の褥(しとね)1

深夜の静寂が、古都の屋敷を深く包み込んでいた。

母娘に与えられた離れは、湿った土の匂いを孕んだ夜風が、青白い竹林を「ザワザワ」と波立たせてる、外界から遮断された密室だ。

庭の蹲(つくばい)から溢れる水の音が、規則正しく、氷のように冷たく鼓膜を叩く。

離れの部屋では、旅の疲れに誘われた理央が、安らかな寝息を立てて深い眠りについていた。

その肌は桃のように瑞々しく、温かなミルクを思わせる甘い匂いが、布団の隙間から漏れ出す。

枕元で時を刻む時計の「チク、タク」という金属音が、静寂の深さをより強調していた。

その隣で、ひとみは意識の輪郭がぼやけるような微睡みの中にいた。

古い床板が、苦悶の声を上げるように「ギィ……」と、低く震えた。

その安らぎは、音もなく開いた障子の隙間から滑り込んできた「影」によって、一瞬で陵辱された。

廊下の障子が微かな音を立てて滑る。

「サッ……サッ、サァー!」

(……!)

ひとみは音を聞き漏らさなかった。

ひとみの心臓が、肋骨の裏側で「ドクン」と、暴力的なまでの鼓動を刻み始める。

物音を立てぬよう、老人が一人、慎重に部屋へと足を踏み入れる。

闇の中に浮かび上がる老人の輪郭は、枯れ果てた大樹のように、不気味で重苦しい。

(理央が隣で寝ているのに……やっぱり来た)

娘に視線を這わせ、ひとみは心の中で祈るばかりであった。

(理央……起きないで……お願い……)

ひとみは唾液を、熱い喉の奥へと「ゴクリ」と飲み下し、パジャマのボタンを外し始める。

(これは、ママの使命なの。……お願い……起きないで。……理央)

娘の寝息が聞こえるたび、罪悪感が針となって彼女の全身を刺し貫く。

硬いプラスチックのボタンが、爪の間で「カチリ」と虚しい音を立てた。
< 152 / 160 >

この作品をシェア

pagetop