絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第ニ話】: 錦糸町の悪夢 4

​「ご主人様……」

​その忌まわしくも甘美な響きが、自分の唇から零れた瞬間、ひとみの身体の芯が熱い泥のように溶け出した。

緊縛された脚は、男の指が触れるたびに、期待と羞恥でピクピクと小さく痙攣している。

​男はすぐに「本番」へと進むことはしなかった。

ひとみの自慢の脚を、指の腹でゆっくりと、まるで高価な絹織物を鑑定するように執拗になぞり続ける。

膝の裏、くるぶしの内側、そして指の股……。

​「……あ、あぁ……っ」

​ひとみは声を漏らし、縛られた手首をガチガチと鳴らした。

一番触れてほしい場所は、すぐそこにある。

なのに、男の指は寸前で逸れ、ただ皮膚の表面をなぞって焦らし続ける。

清潔な病院で加納が振るうメスのような愛撫とも、佐藤の纏わりつくような執着とも違う。

この男のそれは、ただただ「道具」を弄ぶ無機質で残酷な蹂躙だった。

​「どうした、そんなに欲しがって。お前の旦那、こんなこと一度もしてくれなかったのか?」

​男の嘲笑混じりの言葉に、ひとみは答えることができない。

幕張の家で誠司が重ねる体温は、義務的で、味気ない。

そこに、これほどまでに肌を粟立たせる「支配」など存在しなかった。

ひとみの秘部は、もはや自分の意思とは関係なく、期待に震え、透明な蜜を滴らせている。

​「……お、お願い……もう、ください……っ」

​プライドも、社会的な地位も、何もかもを脱ぎ捨てて懇願するひとみ。

男はその潤んだ瞳を見下ろし、わざとらしく溜息をつくと、男の太い指を彼女の唇に押し込んだ。

​「まだ早い。お前が自分が誰なのか、完全に忘れるまで……徹底的に『お預け』だ」

​指にこびりつく唾液の音、部屋を支配する重苦しいまでの男の匂い。

ひとみは、その指を吸い上げながら、これから始まる本格的な凌辱への恐怖と、絶頂を予感させる期待感の狭間で、狂おしいほどに悶え続けた。
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