絡まる残り香―滴る甘い蜜―
【第三話】: 弄ばれて、目覚める 1
御茶ノ水駅の聖橋口から、ひとみは吸い寄せられるように黄色い総武線各駅停車のホームへ降りた。
秋葉原、浅草橋、両国……。
一駅ごとに、日常から遠ざかっていく。
各駅停車特有の、のろのろとした加減速が、ひとみの焦燥を煽る。
隣に立つ男の指先が、吊り革を掴むふりをして、ひとみのカーディガンの下、白いシャツを柔らかな腰の曲線に這わされた。
「……次の錦糸町で降りるぞ」
男の低い囁き。
本当なら、錦糸町で向かいのホームに止まっている「総武線快速」に飛び乗れば、千葉の自宅へと、平凡な妻の日常へと帰れるはずだった。
快速の青いラインは、ひとみにとっての「自由への境界線」。
だが、錦糸町のホームに滑り込んだ瞬間、ひとみの足は、向かい側の快速電車ではなく、男が向かう「北口の改札」へと、磁石に吸い寄せられるように動いていた。
快速電車のドアが閉まる、無情なプシュッという音。
見送ってしまった。
自ら進んで、快速電車の「鉄鎖」に繋がれる道を選んでしまった。
錦糸町駅前の喧騒は、ひとみの罪悪感を麻痺させる。
秋葉原、浅草橋、両国……。
一駅ごとに、日常から遠ざかっていく。
各駅停車特有の、のろのろとした加減速が、ひとみの焦燥を煽る。
隣に立つ男の指先が、吊り革を掴むふりをして、ひとみのカーディガンの下、白いシャツを柔らかな腰の曲線に這わされた。
「……次の錦糸町で降りるぞ」
男の低い囁き。
本当なら、錦糸町で向かいのホームに止まっている「総武線快速」に飛び乗れば、千葉の自宅へと、平凡な妻の日常へと帰れるはずだった。
快速の青いラインは、ひとみにとっての「自由への境界線」。
だが、錦糸町のホームに滑り込んだ瞬間、ひとみの足は、向かい側の快速電車ではなく、男が向かう「北口の改札」へと、磁石に吸い寄せられるように動いていた。
快速電車のドアが閉まる、無情なプシュッという音。
見送ってしまった。
自ら進んで、快速電車の「鉄鎖」に繋がれる道を選んでしまった。
錦糸町駅前の喧騒は、ひとみの罪悪感を麻痺させる。