絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第一話】: 侵食される日常 7

翌朝。

ひとみはいつものように、シワ一つないレディーススーツに身を包み、病院の受付カウンターに座っていた。

背筋を伸ばし、患者に穏やかな微笑みを向ける。

その姿は、どこから見ても有能で清潔な医療事務員そのものだ。

​だが、スーツのタイトスカートの中、彼女の下腹部は、昨夜植え付けられた何人もの男たちの「種」で重く、熱く、澱んでいた。

歩くたびに、昨夜の狂乱の残滓が内腿を伝いそうになり、そのたびにひとみは人知れず膝を震わせる。

​(……誰も、気づかない。私が昨夜、あんな場所で、あんな風に汚されたなんて)

​その時、背後から診察室のドアが開く音がした。

振り返らなくてもわかる。

佐藤だ。

​佐藤はひとみのすぐ横を通り過ぎる際、わざとらしく足を止めた。

そして、まるで獲物の匂いを嗅ぎ分ける野獣のように、彼女の横顔を「舐めるように」観察し始めた。

​「おはよう、ひとみさん。……今日は、一段と顔色が艶やかだ」

​佐藤の低く湿った声が、ひとみの鼓膜を撫でる。

佐藤の視線は、ひとみの目元から、きっちりとボタンを留めたシャツの襟元、そして机に隠された下半身へと、執拗に這い回った。

​「……ありがとうございます。佐藤先生も、お忙しそうですね」

​ひとみはツンと顔を背け、事務的に答える。

だが、佐藤の鼻腔は、彼女が纏う石鹸の香りの奥に潜む、微かな、しかし決定的な「男たちの匂い」を捉えていた。

​(……この女、昨日、一体どこで何をされた?)

​佐藤の瞳に、昏い愉悦と激しい嫉妬が混じり合う。

ひとみの内側に、自分以外の男の痕跡が刻まれている。

それを確信した佐藤のモヤモヤは、もはや制御不能な暴力的な独占欲へと変貌していった。

​ひとみは佐藤の視線から逃れるように、パソコンの画面に目を落とした。

しかし、彼女の心はすでに、あの薄暗い大部屋の、男たちの熱気に支配されていた。

​(また、あそこに行けば……もっと、壊してもらえる……?)

​腹の底に溜まった熱が、ひとみの理性を静かに、確実に溶かし始めていた。
< 33 / 79 >

この作品をシェア

pagetop