絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第一話】: 日常の皮を剥ぐ 3

​個室のドアが閉まった瞬間、カチリと鍵の降りる音が静寂に響いた。

「……少し、休ませてくれるんじゃなかったんですか?」

ひとみは微かな抵抗を試みるが、寄りかかった初老の男性の腕は、先ほどよりも強固に彼女の腰を拘束していた。

​「ああ、ゆっくり休ませてあげるよ。……君のその、硬い殻を脱ぎ捨ててからね」

​紳士的だった声は、低く、ねっとりとした欲望を帯びたものへと変貌していた。

ベッドに押し倒され、ガウンの帯を無造作に解かれる。

身体に纏ったシャネルの香水が、男の体温と混じり合い、個室の中に濃厚な情欲の香りを充満させた。

​男の指先は、驚くほど正確にひとみの弱点を探り当てる。

まずは耳元、そしてうなじ。

執拗に、ゆっくりと、焦らすように這い回る舌。

「……あ、……ん、んんっ……」

ひとみは声を漏らさないよう唇を噛んだが、男の熟練の手つきは、彼女の「事務員としての理性」を嘲笑うように、最も敏感な場所へと伸びていった。

(あぁぁ……気持ちいい……蕩けそう)

​「ここが、こんなに熱くなっている。……正直な身体だ」

​男はひとみの両脚を割り、その顔を股間へと埋めた。

ターゲットは、彼女の聖域の中心に位置する、小さく隆起した突起――クリトリスだった。

そこを、逃げ場を奪うように指で固定し、湿った舌で執拗に、しつこく、円を描くように舐め上げ始める。

​「や、……だ、……そんなっ、ああぁっ!」

​最初は小さな喘ぎだった。

しかし、一瞬の隙も与えない連続的な刺激に、ひとみの腰は無意識に跳ね上がり、背中を反らせた。

(この感じ、いいわぁ……頭、真っ白になる)

男は涎を撒き散らしながら、一心不乱にその一点を攻め立てる。

「ひっ、あ……あああぁっ! い、いく……壊れる……っ!」

​我慢していた声は、いつしか個室の壁を越え、外まで響くほどの叫びへと変わっていた。

その異様な昂ぶりに誘われるように、廊下を通りかかった大部屋の常連たちが、一人、また一人と個室の入り口に集まり、隙間からその光景を覗き見始める。

​「おい、あの新顔……すごい声出してるぜ」

「あのジジイ、相変わらず粘っこいな……」

​覗き見られている。

その羞恥心がさらにひとみの感度を跳ね上げた。

絶え間ない快楽の濁流に飲み込まれ、ひとみの瞳からは焦点が消え、開いた口からは銀色の涎が糸を引いて溢れ落ちる。

放心状態のまま、ただ「一点」を攻め続けられる快感に、彼女は自ら奈落の底へと沈んでいった。
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