絡まる残り香―滴る甘い蜜―
【第ニ話】: 夕刻の疼き、蜜の通い路 1
上野の喧騒を背に、ひとみの一歩は、アスファルトから湿ったコンクリートへと沈む。
地下へと続く階段は、外気の熱を遮断し、ひんやりとした土の匂いを吐き出していた。
一段降りるたび、パンプスのヒールが「カツン」と硬質に響き、狭い壁に反響する。
「……はぁ、……」
肺に流れ込む空気は、カビの胞子と、古いタバコのヤニが混ざり合った重い味だ。
手摺りに触れた指先は、結露した湿気でぬるりと滑り、鉄錆の臭いを吸い上げる。
視界の先、地下の闇の底で、真紅のネオンがどろりと濁った光を放っていた。
「JIRAJI」の重厚な防音扉が、重低音の微かな振動をひとみの腹の底に伝える。
扉の隙間から漏れ出すのは、複数の男女が発する、蒸せ返るような体温の混濁。
高価なサンダルウッドの香水と、剥き出しの精の匂いが、鼻腔を熱く焼き焦がした。
ひとみは、自らの内に溜まった、甘く濁った蜜の重みを下腹部で受け止める。
タイトスカートの裏地が、歩くたびに太腿の熱を吸い、じっとりと肌に張り付く。
その不快なはずの粘り気が、今は最高の愛撫となって、彼女の理性を削り取った。
「……待ってて、……」
震える掌で、冷徹な真鍮のノブを握ると、微かな静電気が指先をチクリと刺す。
(こんなの駄目よ、駄目よ。……家へ帰らなきゃ……帰らなければ……でも……また欲しい)
舌先で上顎をなぞれば、緊張で渇ききった喉に、自身の唾液の苦味が広がった。
扉の向こう、あの「12粒の真珠」を抱く白髪の男の影を、網膜が強く求めている。
地下へと続く階段は、外気の熱を遮断し、ひんやりとした土の匂いを吐き出していた。
一段降りるたび、パンプスのヒールが「カツン」と硬質に響き、狭い壁に反響する。
「……はぁ、……」
肺に流れ込む空気は、カビの胞子と、古いタバコのヤニが混ざり合った重い味だ。
手摺りに触れた指先は、結露した湿気でぬるりと滑り、鉄錆の臭いを吸い上げる。
視界の先、地下の闇の底で、真紅のネオンがどろりと濁った光を放っていた。
「JIRAJI」の重厚な防音扉が、重低音の微かな振動をひとみの腹の底に伝える。
扉の隙間から漏れ出すのは、複数の男女が発する、蒸せ返るような体温の混濁。
高価なサンダルウッドの香水と、剥き出しの精の匂いが、鼻腔を熱く焼き焦がした。
ひとみは、自らの内に溜まった、甘く濁った蜜の重みを下腹部で受け止める。
タイトスカートの裏地が、歩くたびに太腿の熱を吸い、じっとりと肌に張り付く。
その不快なはずの粘り気が、今は最高の愛撫となって、彼女の理性を削り取った。
「……待ってて、……」
震える掌で、冷徹な真鍮のノブを握ると、微かな静電気が指先をチクリと刺す。
(こんなの駄目よ、駄目よ。……家へ帰らなきゃ……帰らなければ……でも……また欲しい)
舌先で上顎をなぞれば、緊張で渇ききった喉に、自身の唾液の苦味が広がった。
扉の向こう、あの「12粒の真珠」を抱く白髪の男の影を、網膜が強く求めている。