絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第ニ話】: 夕刻の疼き、蜜の通い路 3

カクテルグラスの縁に残る、ライムの鋭い酸味とジンの苦汁が舌先を痺れさせる。

ひとみの頬は、アルコールの熱によって、熟した果実のような芳香を放ち始めた。

隣り合う美奈代の、濃厚なイランイランの香水が、肺の奥まで重く沈み込む。

「……ねぇ、今夜は男なんて、ただの『背景』にしない?」

美奈代の湿った吐息が、ひとみの耳朶を這い、鼓膜を熱く震わせた。

その指先が、ひとみの均整の取れた太腿に触れると、絹の滑らかな冷感が走る。

女性特有の、柔らかくも芯のある指の圧力が、皮膚の下の神経を鋭く弾いた。

「ふふ、……いいわね。男には、解らない領域」

ひとみの声は、自身の喉の奥で、粘りつく蜜のような甘い響きを帯びる。

二人は、獲物を狙う男たちの刺すような視線の温度を、背中で冷ややかに撥ね退けた。

互いの腰に腕を回すと、肉の柔らかな弾力と、微かな石鹸の匂いが鼻腔を突く。

ふたりがスリッパの音をたて、乾いた響きが廊下の闇に反響した。

支え合う肩越しに伝わる、美奈代の肌の微かな湿り気と、ドクドクと刻まれる鼓動。

奥に位置する「大部屋」の重厚な扉からは、古い革と、誰かの喘ぎの残響が漏れ出す。

扉を開ければ、そこには男の剛直さでは決して届かない、繊細な指先の迷宮が待つ。

「……ん、……っ」

まだ何も始まっていないはずの、互いの肢体が触れ合う衣擦れの音。

その乾いた摩擦音が、ひとみの下腹部を、耐えがたいほどの切なさと熱で満たしていく。

女が女を愛でる、その秘められた園へと、二人は溶け合うように消えていった。

視界を占めるのは、白く柔らかな曲線と、湿度を増した「雌」の匂いだけ。

男の不在を埋めて余りある、極上の、そして残酷なまでの快楽の予感に、ひとみは酔い痴れる。
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