絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第一話】: 白衣の陥穽 5

加納が身体を離すと、結合部の粘液が糸を引いて切れた。

冷たい夜気が、熱を持ったひとみの秘部を無慈悲に撫でる。

部屋には、精液の生臭さと加納の煙草の香りが淀んでいた。

​「……もう、帰るの?」

ひとみは乱れた髪を掻き上げ、鏡に映る自分を睨む。

充血した瞳と、紅潮した頬が、女の悦びを饒舌に語る。

鏡の表面に付着した微かな曇りが、吐息の熱を証明した。

​加納は無言で、銀色のライターをカチリと鳴らした。

立ち昇る紫煙の苦い匂いが、鼻腔の奥を鋭く刺す。

「幕張まで、一時間以上かかるでしょう」

​ひとみは、脱ぎ捨てられたタイトスカートを拾い上げた。

シワの寄った生地の感触が、掌に罪の重さを伝える。

自慢の脚をストッキングに滑り込ませる、絹の摩擦音。

​ブラウスのボタンを留める指先が、微かに震えた。

加納の視線は、まだ彼女の形の良い胸を追っている。

欲望の残滓が、ホテルの薄暗い照明の下で濁っていた。

​ホテルの重い扉を閉めると、廊下の無機質な冷気が頬を打つ。

加納の残り香が、ブラウスの襟元から鼻腔を微かにくすぐる。

エレベーターの鏡に映る自分は、唇だけが酷く赤い。

​御茶ノ水駅のホーム、神田川の匂いと湿った風が混じり合う。

総武線の黄色い車体が、耳を裂くような金属音を立てて滑り込んできた。

自慢の脚を揃えて座るひとみの隣に、仕事帰りの男が座る。

​男の安っぽい整髪料の匂いが、加納のムスクを上書きしようとする。

ひとみは不快そうに顔を顰め、車窓に映る自分の胸を眺めた。

ブラジャーのレースが、まだ熱を持った乳首を擦り、刺激する。

​「……ふう」

吐息が窓を曇らせ、夜の街のネオンを滲ませた。

幕張本郷駅に降り立つと、潮の香りが一気に濃度を増す。

日常という名の檻が、目の前のロータリーに広がっていた。

​バスの座席のクッションの感触が、腰の重みを強調する。

マンションの自動ドアが開く音は、まるで処刑台の足音だ。

鍵を回す金属音が、静まり返った玄関に冷たく響いた。
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