絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第五話 】: 異空間の宴、貪る快楽 3

四つん這いで、泥濘に沈むように両手を投げ出したひとみは、内側に注がれた熱い塊がゆっくりと逆流し、太腿を伝い落ちる不潔な感触にさえ、至高の悦びを感じていた。

虚空を彷徨う瞳、反射的に体躯をビクつかせる様は、死にゆく小動物のようでありながら、その実、最も鮮烈な生を謳歌していた。

小指を唇に咥え、女としての深淵を咀嚼する。

鼻腔を支配するのは、剥き出しの精の匂いと、自分たちが流した蜜が混ざり合い、発酵したかのような濃厚な芳香だ。

この場にいるのは、名前も肩書きも剥ぎ取られ、ただ本能のままに交わる野生の雄と雌。

その光景は、この大部屋を埋め尽くす全ての者たちに伝播し、集団的な狂気へと昇華されていた。

やがて、男たちの荒い呼吸だけが反響する静寂の中、重みから解放されたひとみの身体は、重力に抗う術もなく、紅い絨毯へと沈み込んでいった。

真っ白だったガウンは、今は引き裂かれた布切れとなり、汗と精液、そして愛液で透明に張り付き、彼女の肉体をより淫靡に曝け出している。

「……はぁ、……はぁ、……っ」

口端から溢れ、糸を引く唾液を拭う気力も、恥じらいも、もうどこにも残っていない。

虚ろな瞳で紅い絨毯を見つめ続けるその姿は、ただ純粋な「快楽の残骸」だった。

「あ、……あぁぁ! ……だめ、……こわれちゃう、……っ!」

傍らで美奈代もまた、男という「異物」による凄惨なまでの洗礼を享受し、だらしなく五体投地に伏している。

(美奈代さんも、満足出来たみたいね。ステキな夜……)

その肌から立ち上る、濃厚で頽廃的な雌の香気が、大部屋の隅々まで行き渡っていく。

汗ばんだ美奈代の肩が小さく震えるのを、ひとみは指先で微かに、慈しむように触れる。

ふたりの雌は、かつての清廉な仮面をかなぐり捨て、本能という名の地獄に、幸福そうな微笑を浮かべて堕ちていった。

残されたのは、男の欲望を貪り尽くし、空虚でありながらも完璧に充たされた、純度の高い「雌」の記録だけだった。

周囲の女性客たちは、その生々しい光景に圧倒され、自身の身体を震わせながら見入っている。

やがて、誰かがドアを開けた。

一瞬、外界の冷ややかな空気とともに、フロアから流れる物憂げなジャズの調べが、遠い異界の記憶のように、静かに、そして残酷に忍び込んできた。
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