絡まる残り香―滴る甘い蜜―
【第二話】: 悪魔の誘惑、天使の囁き 2
その刹那、脳裏をよぎったのは、昨夜、大部屋の紅い絨毯の上で自分の髪を乱暴に掴み、後頭部を仰け反らせた男の、節くれ立った大きな手だった。
(……。)
事務室に漂うのは、消毒液と加湿器の清潔な匂い。
だが、ひとみの鼻腔の奥には、いくらシャワーで洗い流しても消えない、あの野卑な「雄」の匂いがこびりついて離れない。
ふとした瞬間に、自分の体から――昨夜、子宮の奥深くまで注ぎ込まれ、今は逆流して乾燥したはずの「証」が匂い立っているのではないか。
その強迫観念が、彼女の項(うなじ)にじっとりと嫌な汗を浮かび上がらせる。
「……っ」
カウンターの下で、ひとみは無意識に両膝を固く合わせた。
(なんでもないかっ……)
タイトスカートの生地越しに伝わる、内腿の痣の疼き。
それは、平穏な事務作業をこなす「若林ひとみ」という仮面の裏側で、昨夜の蹂躙を貪欲に思い出し、悦びに震えている「雌」としての肉体の叫びだった。
昼休憩のチャイムとともに、ひとみは重い事務服の肩をすくめ、病院の通用口から這い出した。
聖橋を渡る風が、事務服の隙間から入り込み、昨夜の熱を帯びた肌を冷酷に撫でる。
(……。)
事務室に漂うのは、消毒液と加湿器の清潔な匂い。
だが、ひとみの鼻腔の奥には、いくらシャワーで洗い流しても消えない、あの野卑な「雄」の匂いがこびりついて離れない。
ふとした瞬間に、自分の体から――昨夜、子宮の奥深くまで注ぎ込まれ、今は逆流して乾燥したはずの「証」が匂い立っているのではないか。
その強迫観念が、彼女の項(うなじ)にじっとりと嫌な汗を浮かび上がらせる。
「……っ」
カウンターの下で、ひとみは無意識に両膝を固く合わせた。
(なんでもないかっ……)
タイトスカートの生地越しに伝わる、内腿の痣の疼き。
それは、平穏な事務作業をこなす「若林ひとみ」という仮面の裏側で、昨夜の蹂躙を貪欲に思い出し、悦びに震えている「雌」としての肉体の叫びだった。
昼休憩のチャイムとともに、ひとみは重い事務服の肩をすくめ、病院の通用口から這い出した。
聖橋を渡る風が、事務服の隙間から入り込み、昨夜の熱を帯びた肌を冷酷に撫でる。