絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第一話】: 奈落へ誘う、特急「踊り子号」 7

たけさんが手を離すと、操り人形の紐が切れたかのように、ひとみは崩れるように床に伏した。

たけさんは満足気に座席の背もたれに身体を持たれかける。

「……奥さん、さぁっ、綺麗にしてくれ」

ひとみの両腕を掴み、自身の化身を咥えさせる。

虚ろな表情でひとみは、たけさんの道具を口に含むと、「屈辱の証」を最後の一滴まで絞り取り、棒の廻りを丁寧に舐め廻す。

前の座席では既に、美奈代が薄眼を開け、満足気な表情で座席にもたれ掛かっている。

ひとみは座席に座ると、崩れた衣服を整える為、
忙しく身支度に余念がない。

自分から腰を振り、男の質量を求めてしまう己の卑しさに絶望しながら、彼女はただ、暗い奈落の底へと加速して落ちていった。

(もう、戻れない。もう戻れない。………いいママには、……決して、……戻れない。)

伊豆へと向かう特急のなかで、二組の男女が織りなす光と影の対比は、ひとみの精神を修復不可能なまでに引き裂いていった。

終着駅に着く頃、ひとみの心の中で何かが変化して行くのを感じていた。

(あの日々には、もう戻れない。違う男達の熱を知ってしまった私は、もう『若林ひとみ』じゃない……)

ごく普通の家庭の主婦から、殻を破り捨てた新たな自分をひとみは、歩もうとしている。

奈落の底へと加速して落ちていく絶望。

けれどその絶望の果てに、彼女はかつてないほどの、暗く熱い解放感を感じていたのだ。
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