絡まる残り香―滴る甘い蜜―

【第二話】:純白の生贄、媚薬のティータイム 3

彼女の独白をきっかけに、他の女性たちからも、押し殺したような呪詛や諦念が漏れ出した。

「私は、ギャンブルに狂った夫の連帯保証人。……もう、どこでもいい。誰でもいいから、この借金を消してくれるなら、肉でも何でも差し出すわ」

熟れきった身体を投げ出した30代の女性は、虚無的な笑みを浮かべて天井を見つめた。

ひとみは、彼女たちの言葉が自分の胸の奥に冷たく突き刺さるのを感じた。

借金、脅迫、あるいは自暴自棄。

自分だけが特別な悲劇のヒロインではない。

ここにいる全員が、何らかの理由で社会からこぼれ落ち、この「聖域」という名のゴミ捨て場に辿り着いたのだ。

「……私も、同じよ。もう、戻る場所なんてない」

ひとみが絞り出した言葉は、他の女性たちの絶望と混ざり合い、密室の湿度をさらに高めていった。

(もう……、もう波風立たぬ平凡な家庭には、私の居場所なんて無いわ。彼女らのように借金は無いけど……、私は家庭を捨てたと一緒ね、境遇はおなじだわ。)

自分だけが異質ではないという事実は、救いではなく、むしろ逃げ場のない孤独を深める猛毒となった。

「あら、ようやく『同類』だと気づいたかしら?」

控え室の隅で、完璧な姿勢を崩さず、ワイングラスを傾けていた美奈代が冷笑を浮かべた。

彼女の冷徹な瞳は、女性たちの絶望を、商品価値を高めるための「スパイス」程度にしか捉えていない。

「外の世界のルールは、ここでは何の役にも立たない。被害者面をするのはおやめなさい。あなたたちは今、この瞬間から、男達の欲望を満たす、値段をつけられるだけの『雌』にすぎないのよ」

美奈代の冷たい宣告に、室内は再び死のような静寂に包まれた。

ひとみは、たけさんの指の感触が残る自分の腹部を、無意識に強く抱きしめた。

(なぜ?なぜ、こうなったのだろ……断る事も出来たのに、なぜ……)
< 82 / 115 >

この作品をシェア

pagetop