絡まる残り香―滴る甘い蜜―
【第二話】:純白の生贄、媚薬のティータイム7
美奈代の冷徹な号令が下り、控え室の扉が音もなく開かれた。廊下には、純白のべビ一ド一ルに身を包んだ10人の「家畜」たちの列ができる。
ひとみの足裏に伝わるレッドカーペットの感触は、驚くほど深く、柔らかい。
だが、媚薬で過敏になった今の彼女には、その沈み込みが底なしの沼のように感じられた。
一歩踏み出すごとに、自身の尊厳が吸い取られ、死へと続く階段を下っているような錯覚に陥る。
廊下の両脇には、金箔の額縁に収められたバロック様式の巨大な絵画たちが並んでいた。
描かれているのは、神話の時代に生贄を捧げる残酷な儀式や、苦悶に歪む聖女たちの姿。
それら高尚な芸術作品の眼差しが、半ば裸に近い姿で歩かされる自分たちの無防備な背中を、冷ややかに見下ろしている。
(……見られている。どこからでも、誰にでも……)
壁の装飾の影、天井の隅。
至る所に潜む監視カメラのレンズが、獲物を狙う猛禽類の目のように、ひとみの震える肢体を執拗に追いかけてくる。
逃げ場のない視覚的な圧迫感に、呼吸は浅くなり、心臓の鼓動だけが耳元でうるさく打ち鳴らされた。
やがて、廊下の突き当たりにある巨大なマホガニーの扉が近づく。
その厚い木材を透過して、ホールの中からパトロンたちの低い地鳴りのような笑い声と、時折響くシャンパングラスの乾いた音が漏れ聞こえてきた。
「……あ、っ……はあ、っ……」
扉の向こうに待つのは、欲望を金で買い叩く男たちの群れ。
ひとみは、前に並ぶ雅代の白く艶やかな背中が、わずかに期待に震えているのを見た。
(言葉ではあんな事、言ってたくせに、割と緊張しているのね)
自分という存在が、まもなく名前を奪われ、ただの「記号」として競り落とされる。
その恐怖と、媚薬がもたらす抗いがたい昂ぶりが混ざり合い、ひとみは目眩を感じながら、運命の扉が開く瞬間を待った。
(あぁ……私も緊張して……漏らしそう。もう戻れない、戻れないのよ。美奈代さんが言う、ただ男に尽くす『雌』にされてしまう……)
彼女と同じ「商品」として、しかし圧倒的な絶望の差を見せつけられながら、ひとみは地獄のオークション会場へと一歩を踏み出した。
ひとみの足裏に伝わるレッドカーペットの感触は、驚くほど深く、柔らかい。
だが、媚薬で過敏になった今の彼女には、その沈み込みが底なしの沼のように感じられた。
一歩踏み出すごとに、自身の尊厳が吸い取られ、死へと続く階段を下っているような錯覚に陥る。
廊下の両脇には、金箔の額縁に収められたバロック様式の巨大な絵画たちが並んでいた。
描かれているのは、神話の時代に生贄を捧げる残酷な儀式や、苦悶に歪む聖女たちの姿。
それら高尚な芸術作品の眼差しが、半ば裸に近い姿で歩かされる自分たちの無防備な背中を、冷ややかに見下ろしている。
(……見られている。どこからでも、誰にでも……)
壁の装飾の影、天井の隅。
至る所に潜む監視カメラのレンズが、獲物を狙う猛禽類の目のように、ひとみの震える肢体を執拗に追いかけてくる。
逃げ場のない視覚的な圧迫感に、呼吸は浅くなり、心臓の鼓動だけが耳元でうるさく打ち鳴らされた。
やがて、廊下の突き当たりにある巨大なマホガニーの扉が近づく。
その厚い木材を透過して、ホールの中からパトロンたちの低い地鳴りのような笑い声と、時折響くシャンパングラスの乾いた音が漏れ聞こえてきた。
「……あ、っ……はあ、っ……」
扉の向こうに待つのは、欲望を金で買い叩く男たちの群れ。
ひとみは、前に並ぶ雅代の白く艶やかな背中が、わずかに期待に震えているのを見た。
(言葉ではあんな事、言ってたくせに、割と緊張しているのね)
自分という存在が、まもなく名前を奪われ、ただの「記号」として競り落とされる。
その恐怖と、媚薬がもたらす抗いがたい昂ぶりが混ざり合い、ひとみは目眩を感じながら、運命の扉が開く瞬間を待った。
(あぁ……私も緊張して……漏らしそう。もう戻れない、戻れないのよ。美奈代さんが言う、ただ男に尽くす『雌』にされてしまう……)
彼女と同じ「商品」として、しかし圧倒的な絶望の差を見せつけられながら、ひとみは地獄のオークション会場へと一歩を踏み出した。