絡まる残り香―滴る甘い蜜―
【第一話】: 白衣の陥穽 9
資料室の重い扉が閉まると、廊下の空気が一気に肺を冷やした。
ひとみの鼻腔には、まだ佐藤の焦燥した汗の匂いがこびりついている。
自慢の脚を運ぶたび、内腿に垂れた蜜が冷えて肌を突っ張らせた。
「……ふう、少し刺激が強すぎたかしら」
洗面所の鏡に向かい、水を含んだペーパーで首筋を拭う。
真鍮の蛇口から流れる水の音が、耳の奥で激しく反響した。
鏡の中の自分は、形の良い胸がまだ小刻みに震えている。
更衣室へ戻ると、自分のロッカーから加納のムスクが漂った気がした。
佐藤の安っぽい洗剤の匂いと、加納の冷徹な芳香が脳内で混ざり合う。
その相反する男の残り香が、ひとみの下腹部を再び熱く疼かせた。
ストッキングを新しいものに履き替えると、絹の摩擦が快楽を呼び覚ます。
窓の外、御茶ノ水の空には三日月が鋭く爪を立てていた。
幕張へ帰るための「妻」の仮面を、ゆっくりと顔に貼り付ける。
「ママ、お腹すいた!」という娘の声を想像し、唇を噛む。
家庭という名の、清潔で、退屈で、無味乾燥な食卓。
ひとみは、自慢の脚をハイヒールに押し込み、硬い音を立てて歩き出した。
御茶ノ水駅のホーム、電車を待つ人々の群れに紛れる。
神田川と油の匂いが混じった線路沿いの風が、スカートを揺らした。
ひとみは自慢の脚を揃え、窓ガラスに映る自分の輪郭をなぞる。
車内に乗り込むと、暖房の熱気と他人の吐息が肌にまとわりつく。
吊り革を握る手首から、佐藤の指が残した僅かな痛みが疼いた。
形の良い胸を圧迫するブラジャーの締め付けが、今は酷く煩わしい。
「……全部、流してしまいたい」
西船橋を過ぎる頃、車窓には幕張の高層ビル群が冷たく光り出す。
潮の香りが微かに混じる夜気が、開閉するドアから入り込んだ。
日常という檻へ向かう足取りは、鉛のように重く、鈍い。
マンションのエレベーター、鏡張りの密室に自分一人が閉じ込められる。
清掃剤のレモンの香りが、鼻腔の奥にこびりついた男の匂いを暴く。
ひとみは首筋を指先でなぞり、佐藤が残した紅い印を髪で隠した。
玄関の鍵を開けると、カレーのスパイスの匂いが漂ってきた。
夫の立てる、規則正しい新聞のページを捲る音がリビングに響く。
「おかえり」という乾いた声が、冷たいフローリングを滑ってきた。「……ただいま」
ひとみはパンプスを脱ぎ、自慢の脚を冷たい廊下へ踏み出した。
夫・誠司の背中は、ソファに沈み込んだまま微動だにしない。
部屋に満ちるカレーの匂いが、資料室で嗅いだ雄の脂の臭いを上書きしていく。
「遅かったね。会議か何か?」
誠司が振り返り、度の強い眼鏡越しにひとみを眺める。
その視線には、佐藤のような卑屈な欲望も、加納のような冷徹な支配もない。
ただ、長年連れ添った家具を点検するような、無味乾燥な光。
ひとみは、形の良い胸を隠すようにカーディガンを前で合わせた。
「ええ、新薬の説明会があって……。先に食べてて良かったのに」
嘘を吐く喉の奥が、渇いてヒリついた。
佐藤の舌が這った鎖骨のあたりが、急に熱を帯びて疼き出す。
食卓に並んだ、冷めかけたカレーの皿。
プラスチックの匙が皿に当たるカチカチという乾いた音が、静寂を際立たせる。
誠司の噛み締める音、飲み込む音、そのすべてがひとみの神経を逆撫でした。
「明日、娘の塾の面談、行けるんだよね?」
誠司の問いかけに、ひとみは生返事をしながらスプーンを動かす。
鼻腔を抜けるスパイスの香りの裏側に、まだあの男たちの残り香が潜んでいる。
幕張の平穏な日常が、まるで出来の悪い演劇のように思えてならなかった。
深夜、寝室に満ちるのは夫の微かな、そして退屈な寝息だけだ。
ひとみは薄い毛布の中で、自慢の脚をゆっくりと擦り合わせた。
シーツの柔軟剤の匂いが、鼻腔の奥にこびりついた「あの感触」を消し去ろうとする。
だが、閉じた瞼の裏には、佐藤の歪んだ眼鏡と、加納の冷徹な指先が交互に現れる。
形の良い胸の先端が、パジャマの生地に触れるだけで、火がついたように疼いた。
「……こんなの、ちっとも足りない」
暗闇の中で呟いた声は、湿った夜気に吸い込まれて消える。
夫の誠司が寝返りを打ち、彼女の腰に無造作に腕を回した。
その掌からは何の熱も感じられず、ただ重いだけの肉の塊に思える。
ひとみは夫の腕をそっと退け、月光が差し込む窓の外を見つめた。
幕張の静寂な夜景の向こう側、鉄の匂いがする御茶ノ水の喧騒が恋しい。
複数の男たちに弄ばれ、壊され、その残り香に包まれる瞬間。
その背徳感こそが、彼女を「女」として繋ぎ止めている唯一の証だった。
翌朝、ひとみは鏡の前で丹念に化粧を施し、紅いリップを引いた。
自慢の脚を再びハイヒールに押し込み、玄関の扉を力強く開ける。
「行ってきます」
その声は昨日よりも艶を帯び、次なる獲物への渇望に震えていた。
ひとみの鼻腔には、まだ佐藤の焦燥した汗の匂いがこびりついている。
自慢の脚を運ぶたび、内腿に垂れた蜜が冷えて肌を突っ張らせた。
「……ふう、少し刺激が強すぎたかしら」
洗面所の鏡に向かい、水を含んだペーパーで首筋を拭う。
真鍮の蛇口から流れる水の音が、耳の奥で激しく反響した。
鏡の中の自分は、形の良い胸がまだ小刻みに震えている。
更衣室へ戻ると、自分のロッカーから加納のムスクが漂った気がした。
佐藤の安っぽい洗剤の匂いと、加納の冷徹な芳香が脳内で混ざり合う。
その相反する男の残り香が、ひとみの下腹部を再び熱く疼かせた。
ストッキングを新しいものに履き替えると、絹の摩擦が快楽を呼び覚ます。
窓の外、御茶ノ水の空には三日月が鋭く爪を立てていた。
幕張へ帰るための「妻」の仮面を、ゆっくりと顔に貼り付ける。
「ママ、お腹すいた!」という娘の声を想像し、唇を噛む。
家庭という名の、清潔で、退屈で、無味乾燥な食卓。
ひとみは、自慢の脚をハイヒールに押し込み、硬い音を立てて歩き出した。
御茶ノ水駅のホーム、電車を待つ人々の群れに紛れる。
神田川と油の匂いが混じった線路沿いの風が、スカートを揺らした。
ひとみは自慢の脚を揃え、窓ガラスに映る自分の輪郭をなぞる。
車内に乗り込むと、暖房の熱気と他人の吐息が肌にまとわりつく。
吊り革を握る手首から、佐藤の指が残した僅かな痛みが疼いた。
形の良い胸を圧迫するブラジャーの締め付けが、今は酷く煩わしい。
「……全部、流してしまいたい」
西船橋を過ぎる頃、車窓には幕張の高層ビル群が冷たく光り出す。
潮の香りが微かに混じる夜気が、開閉するドアから入り込んだ。
日常という檻へ向かう足取りは、鉛のように重く、鈍い。
マンションのエレベーター、鏡張りの密室に自分一人が閉じ込められる。
清掃剤のレモンの香りが、鼻腔の奥にこびりついた男の匂いを暴く。
ひとみは首筋を指先でなぞり、佐藤が残した紅い印を髪で隠した。
玄関の鍵を開けると、カレーのスパイスの匂いが漂ってきた。
夫の立てる、規則正しい新聞のページを捲る音がリビングに響く。
「おかえり」という乾いた声が、冷たいフローリングを滑ってきた。「……ただいま」
ひとみはパンプスを脱ぎ、自慢の脚を冷たい廊下へ踏み出した。
夫・誠司の背中は、ソファに沈み込んだまま微動だにしない。
部屋に満ちるカレーの匂いが、資料室で嗅いだ雄の脂の臭いを上書きしていく。
「遅かったね。会議か何か?」
誠司が振り返り、度の強い眼鏡越しにひとみを眺める。
その視線には、佐藤のような卑屈な欲望も、加納のような冷徹な支配もない。
ただ、長年連れ添った家具を点検するような、無味乾燥な光。
ひとみは、形の良い胸を隠すようにカーディガンを前で合わせた。
「ええ、新薬の説明会があって……。先に食べてて良かったのに」
嘘を吐く喉の奥が、渇いてヒリついた。
佐藤の舌が這った鎖骨のあたりが、急に熱を帯びて疼き出す。
食卓に並んだ、冷めかけたカレーの皿。
プラスチックの匙が皿に当たるカチカチという乾いた音が、静寂を際立たせる。
誠司の噛み締める音、飲み込む音、そのすべてがひとみの神経を逆撫でした。
「明日、娘の塾の面談、行けるんだよね?」
誠司の問いかけに、ひとみは生返事をしながらスプーンを動かす。
鼻腔を抜けるスパイスの香りの裏側に、まだあの男たちの残り香が潜んでいる。
幕張の平穏な日常が、まるで出来の悪い演劇のように思えてならなかった。
深夜、寝室に満ちるのは夫の微かな、そして退屈な寝息だけだ。
ひとみは薄い毛布の中で、自慢の脚をゆっくりと擦り合わせた。
シーツの柔軟剤の匂いが、鼻腔の奥にこびりついた「あの感触」を消し去ろうとする。
だが、閉じた瞼の裏には、佐藤の歪んだ眼鏡と、加納の冷徹な指先が交互に現れる。
形の良い胸の先端が、パジャマの生地に触れるだけで、火がついたように疼いた。
「……こんなの、ちっとも足りない」
暗闇の中で呟いた声は、湿った夜気に吸い込まれて消える。
夫の誠司が寝返りを打ち、彼女の腰に無造作に腕を回した。
その掌からは何の熱も感じられず、ただ重いだけの肉の塊に思える。
ひとみは夫の腕をそっと退け、月光が差し込む窓の外を見つめた。
幕張の静寂な夜景の向こう側、鉄の匂いがする御茶ノ水の喧騒が恋しい。
複数の男たちに弄ばれ、壊され、その残り香に包まれる瞬間。
その背徳感こそが、彼女を「女」として繋ぎ止めている唯一の証だった。
翌朝、ひとみは鏡の前で丹念に化粧を施し、紅いリップを引いた。
自慢の脚を再びハイヒールに押し込み、玄関の扉を力強く開ける。
「行ってきます」
その声は昨日よりも艶を帯び、次なる獲物への渇望に震えていた。