甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
「ではこの反物から、桜子様の寸法に合わせた一着にあつらえさせていただきますね。家紋も入れて、和裁士の手でひと針ひと針縫い上げますので、2か月ほどお時間をちょうだいいたします」

そう言うと雅子は、桜子を別室に案内して採寸を始めた。

「あら、奥様とほとんど同じだわ」

雅子の呟きに、桜子は思わず「え?」と聞き返す。

「左京さんのお母様と、ですか?」
「ええ。奥様も小柄で可愛らしい方でした。桜子様と雰囲気がよく似ていて」
「そうなのですね。実はお母様の形見の色留袖を譲り受けたのですが、お直しがいらないくらいちょうど良くて」
「まあ、どの色留袖でしょう?」
「胡粉色の綸子に、友禅染で四季草花が見事に描かれている……」

ハッとしたように目を見開いた雅子は、次の瞬間ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「えっ、あの、雅子さん? どうかされましたか?」
「いえ……申し訳ありません、桜子様。胸がいっぱいになってしまって」
「大丈夫ですか?」

桜子はそっと雅子の背中をさする。

「ありがとうございます。桜子様は本当にお優しい方……。そんなところも咲子(さきこ)様……亡くなられた奥様にそっくりですわ。あの綸子の色留袖は、奥様が一番お好きな着物でした。私が呉服屋の跡取り娘として、初めてご提案させていただいた反物で仕立てました。奥様は袖を通された時『雅子さんの想いが詰まった、世界で1つの品よ』と喜んでくださって。あの時の奥様の笑顔と美しい着物姿は、いつまでも忘れられません」
「そうだったのですね」

桜子の目にも涙が込み上げてきた。

「私もお会いしたかったです、お義母様に」
「ええ、きっと桜子様のことを温かく迎えられたでしょうね。大丈夫、きっと天からあなた方を見守っていらっしゃるわ」
「はい」

二人はしばらく涙で天国に想いを馳せた。
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