甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
愛などないはずなのに
翌月のパーティー当日。
桜子はマンションの和室で、譲り受けた色留袖を着付ける。

今夜は橘ホールディングスとも関係が深い会社の、創立50周年記念パーティーとあって、帯はおめでたい二重太鼓で結んだ。

「左京さん、お待たせしました」

髪も結って飾りを付け、静々と和室からリビングに入ると、ソファでパソコンに目を落としていた左京が顔を上げる。

「準備出来た……」

振り返った左京は、言葉を止めて目を見開いた。

「……桜子」
「はい。あの、いかがでしょう?」

信じられないとばかりに驚いた表情の左京に、桜子は不安になる。

「やはり私には不釣り合いでしょうか」

左京はようやく我に返った。

「いや、ごめん。とてもよく似合っている」
「本当に?」
「ああ」

左京も、シルバーのベストに光沢のあるブラックのスーツを合わせ、髪もフォーマルに整えていた。

「では行こうか」
「はい」

二人でマンションのエントランスに下りると、ロータリーに停めた車の横で、戸部が「おおー!」と感激する。

「これはまた、なんとお美しい! 美男美女のセレブご夫妻ですね」
「戸部、声が大きい」

左京はクールに答えると、桜子の手を支えて後部シートに座らせた。

反対側のドアから桜子の隣に座ると、置いてあったクッションを手にする。

「桜子、これを背中に。帯がつぶれないように」
「はい、ありがとうございます」

桜子の帯の下にクッションを差し入れ、「これでいいか?」と左京は顔を覗き込んだ。

「はい、とても楽になりました。ありがとうございます、左京さん」

微笑み合う二人をバックミラー越しに見てから、戸部は「それでは出発いたします!」と張り切って車を走らせ始めた。
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