甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
「桜子?」

左京に呼ばれて、桜子は我に返る。

夕食を食べながら、いつの間にか箸を持つ手が止まっていた。

「ごめんなさい、ボーッとしてしまって。なにか?」
「いや、どうかしたのか? 体調が優れないとか?」
「いいえ、大丈夫です。ちょっと考えごとをしていただけで」
「そうか。実は、11月にアメリカに視察に行くことになったんだ」
「アメリカに、ですか? どれくらい?」
「西海岸のホテルを見て回るのと、コロラドやワシントン州でも新たな候補地を下見するから、おそらく3週間ほど」
「そんなに?」

桜子は途端に不安になる。

左京と3週間も離れるとは、想像しただけで寂しくなった。

うつむいて、込み上げそうになる涙をこらえていると、左京がそっと桜子の顔を覗き込む。

「……桜子も一緒に来るか?」
「え?」

顔を上げると、左京は優しく微笑んでいた。

「料亭のことがあるから、俺からは強くお願い出来ないと思っていた。だけど桜子には、一緒に来てほしい。お義父さんが許してくれるなら」

桜子はパッと笑顔になる。

「はい、行きたいです! 連れて行ってください」
「ああ、分かった。今度お義父さんにお願いに行こうか」
「もちろんいいって言うと思いますよ」
「そうだけど。大事な娘さんをアメリカに連れて行くことは、きちんとお伝えしておかなければ。俺が必ずお守りしますと」

きっぱりとそう言う左京に、桜子の胸がじんわりと温かくなった。

(本当に優しい、左京さんは)

抱えていた小さな悩みは一瞬で吹き飛び、桜子は早くも、アメリカ行きをわくわくと心待ちにし始めた。
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