甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
「うおー、なんて可愛い! こんなにも汚れのない輝いた命があるなんて。まさにこの世に舞い降りたエンジェル!」
「戸部、うるさい」

分娩室から病室に移ると、荷物を持って待ち構えていた戸部が、赤ちゃんを見るなり目を輝かせた。

「だいたい、なんで家族よりも先に戸部にお披露目することになったんだ」
「いいじゃないですか。今赤ちゃんが目を開けたら、俺のことをパパだと信じちゃいますかね?」

すると左京はハッとして、ベビーコットを覗き込んでいる戸部を羽交い絞めにする。

「ちょっと、常務、なにするんですか?」
「しっ! 目を覚ましたらどうする。早く離れろ」
「やだなー、本気にしたんですか? 常務、奥様だけじゃなく赤ちゃんにもメロメロですね」
「当たり前だろ、俺と桜子の愛の結晶なんだから」
「さらっとノロけるの、やめてください」

止まらない二人のやり取りに苦笑いして、桜子はベビーコットですやすや眠る赤ちゃんの頬をそっとなでた。

「ふふっ、柔らかくてすべすべ。こんにちは、赤ちゃん。私がママよ。わいわい言ってるのは、パパと一郎おじさん」

地獄耳なのか、戸部はピクリと反応してベビーコットに戻る。

「はーい、一郎おじちゃんでちゅよー」
「戸部、やめろ! 起きたらどうする?」
「常務の声の方が大きいですよ?」
「あっ、触るな! やめろ! パパは俺だ」

賑やかな中でも、気持ち良さそうに眠ったままの赤ちゃんに、桜子は「大物になりそうですねー」と笑いかけた。
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