兄になった先輩を好きだった

第11章 気づいてしまった

それから、数日。

私はできるだけ颯斗先輩と距離を取るようにしていた。

家では普通に話す。

でも学校では、必要以上に近づかない。

それが一番いいと思ったから。

でも――

それは、先輩にも分かっていたみたいだった。



放課後。

体育館の裏で、用具を運んでいたときだった。

「藤沢」

声がする。

振り向く。

颯斗先輩だった。

「まだ帰ってなかったんですね」

「お前こそ」

先輩は少し困った顔で笑った。

「最近、忙しそうだな」

「普通です」

私はできるだけ普通に答える。

でも目を合わせないようにしていた。

すると先輩が言った。

「藤沢」

少し真剣な声だった。

「俺、何かした?」

胸がドキッとする。

「え?」

「なんか避けられてる気がする」

言葉が出ない。

図星だった。

でも――

言えるわけがない。

「そんなことないです」

私は小さく笑う。

「気のせいですよ」

先輩は少し黙った。

そして、ゆっくり言った。

「……そっか」

その声が少し寂しそうで、胸が痛くなる。

でも。

私はこれ以上近づいたらいけない。

「先輩、もう帰った方がいいですよ」

私は用具を持ち上げる。

「三年生忙しいじゃないですか」

先輩は少しだけ私を見ていた。

でもやがて言った。

「…藤沢」

その声は、今までと少し違っていた。

「お前さ」

少し言葉を探す。

「家でも、学校でも…」

そして、ぽつりと言った。

「無理してない?」

心臓が止まりそうになる。

なんで分かるんだろう。

私は慌てて首を振る。

「してません」

でも声が少し震えていた。

先輩はそれを見ていた。

そして、ふっと息を吐いた。

「……そうか」

それだけ言って、空を見る。

夕焼けが広がっていた。

しばらく沈黙が続く。

そのとき。

先輩が小さく言った。

「俺さ」

私は顔を上げる。

先輩は私を見ていなかった。

空を見たまま、言った。

「最近、考えてたんだ」

少しだけ声が低い。

「もし」

一瞬止まる。

「もし、あの日…」

再婚の話の日だ。

「お前と家族になってなかったら」

胸がぎゅっとなる。

先輩はそこで言葉を止めた。

そして、小さく笑った。

「……いや、なんでもない」

その笑い方が、少し苦しそうだった。

私は何も言えない。

言葉が出ない。

だって。

今の言葉の意味が、分かってしまったから。

先輩はきっと――

気づいてしまった。

自分の気持ちに。

そして、それが許されないことにも。

先輩は私を見る。

少しだけ優しい目だった。

「帰るか」

「はい」

私たちは並んで歩く。

でも、距離は少しだけ離れていた。

前より近いのに。

前より遠い。

そんな距離だった。
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