兄になった先輩を好きだった

第2章 放課後の準備

体育委員になってから、一週間が過ぎた。
思っていたよりも、体育委員会は忙しかった。
放課後は体育倉庫の整理、
体育祭の準備、
用具のチェック。
「これ、外の倉庫に運んどいて」
橘先輩が段ボールを指さす。
「え、重そうなんですけど」
「大丈夫、持てる」
「絶対重いですよ」
私がそう言うと、先輩は笑った。
「じゃあ一緒に持つ?」
「……それなら」
二人で段ボールを持つ。
体育館の外に出ると、夕方の空が広がっていた。
オレンジ色の光が校庭に落ちている。
「藤沢、部活やってないの?」
先輩が聞く。
「やってないです」
「意外」
「なんでですか」
「体育委員だから」
「関係あります?」
「なんとなく」
そんな、どうでもいい会話。
でも――
気づけば、こういう時間が増えていた。
体育館裏の倉庫に段ボールを置く。
「ありがと」
先輩が言う。
「いえ」
「藤沢さ」
少しだけ真面目な声。
「体育委員、嫌だった?」
図星だった。
「……ちょっと」
正直に言うと、先輩は小さく笑った。
「最初みんなそう言う」
「でも」
私は少し考えてから言った。
「今は、そんなに嫌じゃないです」
「なんで?」
「……」
言葉に詰まる。
理由は分かっている。
でも言えない。
「先輩がいるから」
なんて。
そんなこと言えるわけない。
「慣れただけです」
そうごまかすと、先輩は頷いた。
「まあ、それならよかった」
夕方の風が吹く。
そのときだった。
「橘ー!」
遠くから声がする。
振り向くと、男子が手を振っていた。
「サッカー部、練習始めるぞー!」
「今行く」
先輩が答える。
そして私を見る。
「今日はもういいよ」
「え?」
「仕事終わり」
「ほんとですか?」
「うん」
少し間があって、先輩は言った。
「また明日」
たったそれだけの言葉なのに。
胸が、少しだけ嬉しくなる。
「はい」
私は小さく頷いた。
先輩は校庭の方へ走っていく。
その背中を、なぜかずっと見てしまった。
(なんでだろ)
まだ、このときは思っていなかった。
これはただの先輩じゃなくて。
私の心が、少しずつ――
恋に変わり始めていることを。
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