兄になった先輩を好きだった

第5章 突然の話

体育祭まで、あと二週間。

委員会の仕事はどんどん忙しくなっていた。

でも、不思議と嫌じゃない。

むしろ放課後が少し楽しみになっていた。

「藤沢、これ運べる?」

橘先輩がボールの箱を指さす。

「いけます」

持ち上げる。

「無理すんなよ」

「大丈夫です」

そう言うと、先輩は少し笑った。

「最近、頼もしくなったな」

その一言だけで、胸が嬉しくなる。

単純だなと思う。

でも、どうしようもない。

私はもう、完全に先輩のことが好きだった。

---

その日の夜。

家に帰ると、リビングの空気が少し違った。

母がソファに座っている。

なんだか落ち着かない様子だった。

「美羽、ちょっといい?」

珍しく真面目な声だった。

「うん?」

私は鞄を置いて座る。

母は少しだけ迷ってから言った。

「大事な話があるの」

胸が少しざわつく。

「……何?」

母は小さく息を吸った。

「お母さんね、再婚しようと思ってる」

一瞬、言葉の意味が分からなかった。

「……え?」

「前からお付き合いしてる人がいるの」

頭が少し真っ白になる。

再婚。

つまり――

「新しい家族になるってこと?」

「そう」

母は優しく言う。

「もちろん、美羽が嫌ならちゃんと考える。でも…」

少しだけ笑う。

「とてもいい人なの」

私は黙って聞いていた。

嫌じゃない。

母が幸せなら、それでいいと思う。

でも。

「……その人」

ふと思って聞く。

「子どもとかいるの?」

母は少し驚いた顔をした。

「いるよ」

胸が、少しだけざわつく。

「男の子」

「同い年?」

母は首を横に振る。

「一つ上かな」

一つ上。

高校三年。

その瞬間、なぜか橘先輩の顔が頭に浮かんだ。

(そんなわけない)

すぐに自分で否定する。

そんな偶然、あるわけない。

母は続ける。

「今度、会ってほしいなって思ってる」

「うん」

私は頷いた。

まだ少し驚いているけど、拒否する理由はなかった。

でもそのときは、まだ知らなかった。

その「一つ上の男の子」が――

私が毎日会っている人だなんて。

そして。

**私が好きになった人だなんて。**

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