最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 日曜日、鞠花が自宅で洗い物をしながらテレビを見ていた時、彼女は大物MCが日本経済について考えるという、少し硬い番組を流しっぱなしにしていた。

 見ようと思っていたのではなく、流れていたのだ。

 だが、聞き覚えのある声がしたと思ってテレビを見た瞬間、彼女の手から皿が落ちてシンクの中で大きな音を立てた。

 目をまん丸にして固まっている鞠花の視線の先、テレビの中には修吾が映っている。

 間違いない、〝彼〟だ。

 声だって同じだし、体型や髪のセットの仕方も、いつも見ている〝彼〟のものだ。

 けれど鞠花は、女性アナウンサーが彼の事を「鳳祥吾さん」と言ったのを聞いて、固まってしまったのだ。

 テレビの中の彼は、『かなえ銀行』の代表取締役社長として発言している。

『かなえ』銀行と言えば大手も大手で、グループを経営している鳳一族は日本三名家に数えられる家柄だ。

 そして――。

 鞠花はうつろな目で家族写真を見る。

「……お父さん、お母さん……」

 彼女は手に洗剤の泡をつけたまま、その場にズルズルと座り込み、涙を流す。

 鞠花はしばし一人で、彼女にしか分からない痛みを味わったあと、目に暗い炎を燃やして決意を固めた。
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